2023 Fiscal Year Research-status Report
ウズベキスタンにおけるロシア語の現地語化についての研究
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20K00563
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柳田 賢二 東北大学, 東北アジア研究センター, 准教授 (90241562)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ソ連 / ウズベキスタン / ロシア語 / 戦後 / 避難民 |
Outline of Annual Research Achievements |
2024年3月18日から4月2日まで本科研費でウズベキスタンに出張し、首都タシケントにおいて戦後のタシケントに関する聞き取り調査を行った。 現在のロシアでは、ウクライナ戦争に起因する人手不足と失業増という矛盾した現象が同時に進行している。今回の出張は、このことにより生じたロシアにおけるアジア人差別の増大という事実を入国直後に現地コーディネーターから知らされ、その状況が3月22日のモスクワ郊外における銃乱射テロという重大事件を契機に日々悪化していく過程を、差別されている人々の出身地で現地の人々とともに知り、なるべく多くの情報を得ようと努力する場となった。この、日本では全く報道されていない、しかし日本人を含むアジア人にとって極めて危険かつ深刻な、ロシアにおける「アジア人嫌悪」の発生と増殖を認識したことが、今回の現地調査の予想外の最大の成果であった。 本科研費の直接のテーマに沿った成果は、4名(うち2名は2019年までに会って別のテーマの話を聞いた人々)のインフォーマントに会って戦中戦後のタシケントの話を聞けたことだったが、うち1942年生まれのウズベク人女性から「戦中に、夫を亡くしたロシアのタタール人女性と子供3人を受け入れたが、タタール語とウズベク語は似ているのでウズベク語で話が通じた。しかしその子供たちはロシア語の学校へ行った」、また、この女性と1953年生まれの現地タタール人男性から「戦争中に、工場がたくさんロシアからウズベキスタンへ疎開して来た。戦後、こうした働き口がたくさんあったので、復員した人々がたくさんウズベキスタンへ来た」、1951年生まれのウズベク人男性から「1966年のタシケント地震の後にソ連各共和国から来た建設者たちは「建設者住宅」を無償で受け取ったので、多くがそのままここに残った。その共通語はロシア語だけだった」といった貴重な証言を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス禍のため当初予定していた研究期間である令和2、3、4(2020,2021,2022)年度のみならず、令和5(2023)年度になっても、年度末が近づいた令和6(2024)年3月前半に至るまで一度もウズベキスタンでの現地研究を行うことができず、できたのは校費で購入した文献を読み込むことだけであった。そこから「戦中戦後の戦争避難民受け入れによる共同住宅の発生およびそこにおける母語を異にするソ連国民のロシア語による交流の進展」という事実が、我が国の旧ソ連研究において一般に考えられてきたよりも重要であるという認識を得た。そして、このことについては前科研費による2019年度調査で得られた高齢現地ロシア人の証言にも言及があった。 しかし、令和5・6年度を跨いだ2024年3月18日~4月2日にようやくウズベキスタンに渡航することができ、首都タシケントにおいて2週間の現地研究を行うことができた。この調査により、タシケントではモスクワ等とは違い一般人の住居に戦争避難民を受け入れることはあまりなかったのだが、戦争中に避難民だけでなく工場そのものがロシアからウズベキスタンに移転して来てそのまま残ったため働き口が多く、戦後になっても他共和国からそこに就職するためにウズベキスタンに移住する者が多く、そうした労働者たちは主に工場の寮に住み、その工場や寮でロシア語による交流が活発に行われるようになったという証言を複数の高齢者から得ることができた。しかし、証言の詳細な分析は令和5(2023)年度末までに行えなかったので、このように評価するほかない。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍を理由とした2回目の研究期間延長が内定したので、令和6(2024)年度も引き続きウズベキスタンにおける現地民族の人々を対象としたインタビューを中心とする現地研究を行う。現在のところ、現地研究を行うのは9月後半を想定している。令和6年度末に研究期間が終了した後は成果をまとめ、オープンアクセス可能な学術雑誌に発表する意向である。
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Causes of Carryover |
本研究課題は、コロナ禍を理由に研究期間を延長されており、令和5年度はその1年目に当たる。また2度目の延長を受けることがほぼ内定しており、令和6年度がその2年目に当たる。 元来本研究課題は本来3年計画として立案され、ウズベキスタンでの海外現地調査を中心とするものだが、コロナ禍により3年間全く海外渡航ができなかったため1円の支出もしなかったという経緯がある。このため、延長を受けた令和5年度が実質的には海外現地調査を伴う研究の第1年目に当たる。3度目の研究期間延長はないとのことであるが、この間に激しい円安が進んだこともあるので、実質上は令和5~6年度の2年計画として執行している。このためかなりの額の次年度使用額が生じたが、令和6年度中に執行できなかった分は返納する意向である。
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