2021 Fiscal Year Research-status Report
中動態としてのフランス語代名動詞の研究 ―受動的用法を中心に―
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20K00572
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
井口 容子 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 教授 (00211714)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 総称性 / モダリティ / 代名動詞 / フランス語 |
Outline of Annual Research Achievements |
フランス語の代名動詞は、ドイツ語の再帰動詞などとならんで、中動態(middle voice)を形成するものと考えられており、再帰的用法、相互的用法、受動的用法などさまざまな用法を有する。本研究が主たる対象とする受動的用法は、Ce livre se lit facilement.「この本は簡単に読める」や、Le vin blanc se boit frais.「白ワインは冷やして飲まれる」といった文に代表されるものであるが、総称性、モダリティ、叙述の類型、非対格性など、様々な言語学的テーマに関連する興味深いものである。2021年度は、その中でも特に、総称性およびモダリティに注目して研究を行った。 総称性の研究において、dispositionalな解釈を受ける文をめぐっては、さまざまな研究者が分析を行っている(Krifka et al. 1995, Menendez-Benito 2013, 等)。量化(quantification)の問題や、Kratzerの手法によるモダリティ分析などが、ここにはかかわってくる。 受動的代名動詞のうち、いわゆる中間構文に相当するものは、dispositionalな解釈を受ける構文のひとつである。中間構文に関しては、Lekakou(2005)が興味深い分析を示しているが、まだ解決すべき問題は多い。形式意味論的な分析をより深めることにより、受動的代名動詞のさまざまな用例の間にみとめられる意味的なネットワークを明らかにし、さらには自発の用法との連続性を考察することは、中動態としてのフランス語代名動詞の研究において意義のあることと思われる。 2021年度はこのような観点から文献を読み込み、考察を重ねてきた。それをもとに、現在論文を作成中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度もコロナ禍のため出張が難しく、例年に比べて資料収集が困難な面があった。加えてオンラインで行われた2021年度日本フランス語フランス文学会秋季大会の大会実行委員長を務めることになったため、その準備等に追われて研究のための時間が取りづらいこともあった。 しかしながら、できるだけ研究時間を捻出し、入手し得る文献の熟読を通して、考察をかなり進めることはできた。これをもとに現在作成中の論文を、まず2022年度は完成させて発表し、さらに分析を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」欄にも記したように、モダリティ、総称性に特に注目しながら行ってきた考察をもとに現在作成中の論文を完成させ、発表する。 これと並行して、受動用法の代名動詞を、「叙述の類型」(益岡 2008, 影山 2012等)の観点から考察したい。益岡(2004)によれば、属性叙述文は「対象表示成分」と「属性叙述成分」の二つが相互依存の関係で結合するという構造を持つ。属性叙述/事象叙述という相違を、意味的なレベルにとどめず、文の統語的な構造に反映させるという視点は非常に重要なものであると思われる。 フランス語の受動的代名動詞を含む文は属性叙述文に相当するものが多いが、事象叙述文と考えられるものもある。井口(2019)においては、統語的な主語以外の構成素について一般化がなされているタイプの受動的代名動詞の文について、属性叙述文/事象叙述文のいずれとみなすべきかを論じた。2022年度はこれをさらに発展させ、受動的代名動詞のさまざまな用例を、叙述の類型の観点から分析したい。2021年度に行った総称文の形式意味論的記述の研究が、この問題を考える上でも関わってくるものと思われる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、出張を行うことができなかったことが最大の理由である。東京や関西方面に出張する折に、書店で手に取って選定した書籍を購入することが多いが、それをすることもできなかった。そのため旅費と物品費の双方に、次年度使用額が生じることとなった。 2022年度は、コロナをめぐる状況も改善に向かうであろうと考えられるので、出張もより行いやすくなるものと思われる。図書の購入による資料の充実も行う。
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