2020 Fiscal Year Research-status Report
A study on the prosodic influence on the semantic interpretation
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20K00601
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
伊藤 さとみ お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (60347127)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 中国語 / プロソディ / 意味論 / 焦点 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、平叙文の焦点に関して分析を行った。8名の中国語話者(黒竜江省1名、吉林省2名、遼寧省1名、安徽省1名、上海市1名、福建省1名、広東省1名)に、四つの平叙文を3回読んでもらい、その録音をPraatで分析した。四つの平叙文は、沈炯 (1985)〈北京話声調的音域和語調〉(林dao・王理嘉(ed.) 《北京語音実験録》 73-130)の研究に従い、第1声のみからなる例文、第2声のみからなる例文、第3声のみからなる例文、第4声のみからなる例文である。このように例文の声調をそろえることで、声調の影響を除いたイントネーションが計測できるようにした。録音した音声について、不自然なイントネーションのものと言い間違えたサンプルを除いてPraatで分析し、各例文の最後の単語について、ピッチの最高値と最低値が、当該文全体のピッチの最高値と最低値に対し、どの程度の割合を占めるかを計算した。その結果、第2声と第4声では、文末の単語が、文全体のピッチの最高値と最低値であることが多いことが明らかになった。一方で、第1声と第3声については、このような結果は得られなかった。ただ、第1声と第3声については、ピッチの最高値(第1声)もしくは最低値(第3声)と一致する傾向が強くみられた。 以上から、第2声と第4声については、文末の単語がピッチの変化幅が大きいという点において、プロソディ上の目立ちを持つことが多いことが分かった。特別な焦点マーカーを伴わない時には、文末に焦点があるという従来の中国語学の認識によるならば、このプロソディ上の目立ちは焦点を表すと言える。一方、第1声と第3声については、ピッチの最高値(第1声)もしくは最低値(第3声)と一致する傾向から、声調がもともと持つ高低の特徴が拡大されることがプロソディ上の目立ちであることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、中国語における焦点とプロソディの関係を明らかにするため、平叙文の文末のプロソディが文の他の部分に比べてピッチの高低において目立っているかどうかを調査した。その結果は、声調によって異なるものの、ピッチの変化幅が大きいことが、焦点を特徴づけていることが分かった。この点は、本年度の成果である。一方、声調による違いがあり、統一的な基準は設定しにくいことが分かった。中国語のような声調言語では、日本語のようなピッチ言語とは焦点の提示の仕方も異なるようである。そのため、すべての声調に共通の焦点を特徴づけるプロソディを明らかにすることはできなかった。プロソディによる焦点の判断基準をどう設定するかという課題が残っている。 なお、本年度の分析で使用した音声は、8名の中国語話者の録音だが、黒龍江省1名、吉林省2名、遼寧省1名、安徽省1名、上海市1名、福建省1名、広東省1名と、地方出身者が多く、また、日本への半年以上の留学経験がある話者であることが、どの程度影響したかが未知数である点で問題が残っている。一方で、話者の出身を厳密にそろえた研究では、その地方の中国語の特性となり、一般的な中国語の特性であると判断することができるかという問題も残る。その点で、今回の分析の結果の妥当性を再考する必要はある。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度には、対比主題(contrastive topic)を特徴づけるプロソディについて研究を進める。対比主題を特徴づけるプロソディは、英語ではBアクセントと呼ばれ、文末の語のピッチが一旦下がってから上がるイントネーション曲線を描く。通常の焦点を特徴づけるプロソディが、文末の下がるイントネーション(Aアクセント)であるのに対し、より複雑なプロソディとなる。例えば、“Well, what about FRED? What did HE eat?”という質問に対し、“FRED ate the BEANS↓.”と答える場合は Aアクセントであり、“Well, what about BEANS? Who ate THEM?”という質問に対し、“FRED ate the BEANS↓↑.”と答える場合はBアクセントである。 このような英語のBアクセントに対し、中国語には対比話題をマークする形態素がある。“可”という副詞は、主語と述語の間に現れ、主語が対比話題であることを表す(劉丹青・唐正大 2001 〈話題焦点敏感算子‘可’的研究〉《世界漢語教学》2001年第3期)。例えば、“李四愚蠢。”(李四 頭が悪い)と対比させるとき、“張三可不愚蠢。”(張三 可 否定 頭が悪い)というように、‘可’という副詞を使う。ただし、この構文は、対比話題そのものへストレスの付与が不可欠である。本年度は、“可”を含む文の音声データを中国語母国語話者より収集し、“可”が英語のBアクセントに対応するものなのか、また、主語に置かれる“重音”はどのような機能を果たすのかを明らかにする。調査方法としては、10名程度の中国語母語話者に、文脈をつけた“可”文を読み上げさせ、その音声を分析し、同時に、合成した音声でのイントネーションの自然度を調査する。
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