2021 Fiscal Year Research-status Report
A study on the prosodic influence on the semantic interpretation
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20K00601
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
伊藤 さとみ お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (60347127)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 言語学 / 意味論 / プロソディ / 中国語 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、対比を表す中国語の副詞“可”の意味と音声特徴について研究した。まず、これまでの先行研究から、“可”の表す意味について整理し、お茶の水女子大学中国文学会報第41号「中国語の副詞“可”の語気」にまとめた。“可”についての研究は多いが、大きく分けると、“可”の機能に基づく分類研究、音韻的強勢の有無に基づく分類研究、統一的研究、通時的な研究、の4つがある。分類研究は、初期の楊惠芬1993の影響が強く、その詳細化もしくは簡略化が試みられてきた。音韻的強勢に関しては、強勢があれば程度が高いことを表す程度副詞、なければ、文中のモダリティを強調するような働きをする語気副詞であると主張されている。また、統一的研究では、叙述内容が事実である、または、対比を表す機能を“可”の基本的機能と考える主張がある。“可”の起源については、疑問を表す用法、程度が高いことを表す用法、許可を表す動詞から対比へつながる流れ、の三つが観察されてきた。本研究では、これらの先行研究をまとめ、A.叙述内容が事実であることを表す、B.意外性を表す、C1.程度が高いことを表す、C2.望みがやっとかなうことを表す、D.切実な言い含めや希望を表すG1.反駁を表す、G2.その文が先行文と対立することを表す、の8つの意味を“可”の意味と仮定し、3人の中国語母語話者に北京大学語料庫(CCL)から採取した21例に含まれる29個の“可”について、どの意味にあたるかを記入させた。その結果、主要な意味と副次的意味の区別なく数えると、3人とも同じ意味を選んだ“可”は26個、2人のみ同じ意味を選んだ“可”は2個、全員が異なる意味を選んだ“可”は1個となり、“可”の意味についてかなり高い一致度が得られた。一致度が高い20例について、音声の採取に取り掛かり、現在のところ3名の音声が採取できており、分析に取り掛かっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、中国語の副詞“可”の意味と音声の関りを明らかにし、音声の収集と整理も行う予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大予防の観点から、マスクを外して話す必要がある音声の収集に関しては、感染状況が好転したときに散発的に行っただけとなった。しかし、従来の研究を整理する中で、“可”が音声的特徴により、大きく二種類に分けられ、一つは程度が高いことを表す程度副詞、もう一つは文中のモダリティを強調するような働きをする語気副詞として区別できるという見方が主流であることが分かった。特に、1.程度副詞は形容詞や心理動詞の直前に現れ、他の程度副詞と連用できないこと、2.語気副詞は、様々な述語の前に現れ、他の程度副詞との連用も可能であること、の二つの点について、多くの研究が一致している。そこで、北京大学語料庫(CCL)から、以下の基準で例文を21個選定した。①“可”の直前に3声(“wo3”、“ni3”)が現れる例、②4声(“zhe4”“shi4”“wu4”)が現れる例、③“可”の後に形容詞が現れる例、④程度副詞である“真”が現れる例。①~②のように例を制限したのは、発話した音声を分析する際に、直前の声調の影響を最小限に抑えるためである。③~④については、形容詞の前の“可”は程度副詞に解釈されやすく、程度副詞の前の“可”は語気副詞に解釈されやすいだろうという予想をしていたが、3人の母語話者に解釈の選定を行わせた結果、形容詞の前の“可”が語気副詞に解釈されることも、程度副詞“真”の前の“可”が程度副詞に解釈されることもあり、必ずしも従来考えられてきたように、“可”と連用される要素によって程度副詞か語気副詞かが区別できるわけではないことが分かった。この点で、中国語の“可”のプロソディと意味対応の研究にいて、進展があったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度には、“可”の音声の収集と分析を行う。2021年度に作成した“可”を含む例文21例、全部で29個の“可”のうち、2人以上の母語話者が主要な意味または副次的意味として同じ意味を選んだ20例、全部で26個の“可”について、中国語母語話者に例文ごと読み上げてもらい、その音声を採取する。全部で10名程度の母語話者の協力を目指す。音声を採取した後、それぞれの“可”の意味について、A.叙述内容が事実であることを表す、B.意外性を表す、C1.程度が高いことを表す、C2.望みがやっとかなうことを表す、D.切実な言い含めや希望を表すG1.反駁を表す、G2.その文が先行文と対立することを表す、の8つのうちどれを選択するかを追加調査する。分析の対象としては、①一人の話者の中で、程度副詞の“可”は音韻的強勢を置き、語気副詞の“可”には音韻的強勢を置かないという区別がなされているかどうか、②その区別は追加調査における“可”の意味選択と一致しているかどうか、の2点に絞る。このほかに、有意な結果が得られるかについては確信がないものの、家庭言語などの言語背景の違いが“可”の発音の違いとして見られるかどうかも、分析を試みる予定である。これらの分析に基づいて、英語で対比主題を特徴づけるBアクセントの分布との対応を考察し、“可”が対比話題をマークすると言えるかどうかについて考察する。最後に、以上の考察をまとめ、学会で発表し、論文にまとめて投稿する。
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Research Products
(2 results)