2022 Fiscal Year Research-status Report
Compilation of Japanese-Berber dictionary
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20K00618
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
石原 忠佳 創価大学, 文学部, 非常勤講師 (10232331)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ベルベル語辞典 / ティフィナグ文字 / アラビア語方言 / モロッコ |
Outline of Annual Research Achievements |
近年発表された具体的な統計によれば、ベルベル語はモロッコやアルジェリアを中心とした北アフリカ諸国全体で約 2500 万人の話者を抱えている。にもかかわらず、ベルベル語を「ティフィナグ文字」と呼ばれるベルベル文字で表記した辞典は、モロッコ国立ベルベル文化研究所 IRCAM (Institut Royal de la Culture Amazighe)において2011年に刊行されたものを除き、本格的な辞書の類は今日に至っても刊行されていない。 IRCAM が発表したこの一冊は、前半がベルベル語、フランス語、アラビア語、また後半の部分がアラビア語、ベルベル語、フランス語の順に記述され、全体で約500ページから構成されたかなり本格的な作業の成果である。 しかしながら、2011年以前、またその後もベルベル語辞典の編纂がなされていない第一の理由として、ベルベル語の地域格差があまりにも大きく、標準ベルベル語を確定してそれを文字化する作業が進んでいない現状に言及できる。実のところ、「話し言葉の文字化」は今日でも困難を極める作業であるが、実施しなければならない研究・調査である。 様々ないきさつを経て標準ティフィナグ文字の構築作業を終えた今回、ティフィナグ文字とラテン文字を併記したベルベル語辞典を編纂する段階に至った。ベルベル語の一連の語彙に関しては、地域格差によって数えきれないほど多くのバリアント(変種)が確認されたが、それぞれの日本語に対応する最大5語までを記述するにとどめ、スペースの関係から残りの語彙は割愛せざるを得なかった。とは言うものの、これまでに「ベルベル語は綴られることのない話し言葉である」と認識され、文字として公式に書きとどめられることがなかった経過を今回の研究で把握できたのは成果の一環である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度の「学術図書出版助成金」を取得できたことにより、2022年度の夏季以降は現地での音声資料と原稿の照合作業を実施した。まず在モロッコアルホセイマ図書館において、研究協力者である 21 世紀リーフ・ベルベル協会の Yassin Errahmouni 会長との共同作業を実施し、ベルベル語辞典編纂に必要と思われるベルベル語の語彙を品詞別に選定し、それらを国際音声記号(IPA)とティフナグ文字で併記する作業を行った。 次にIRCAMモロッコ王立アマズィグ文化研究所図書館を拠点として、モロッコの山岳地帯を小アトラス山脈、大アトラス山 脈、アンティアトラス山脈の3地域に分割して、それぞれの地域のインフォーマントによデータる聞き取り調査を拠り所として、音声データベースを再確認し、音声データベースのベルベル文字化作業を推進して、ベルベル語辞典の最終チェックを実施した。 2023年2月に発刊した『ベルベル語小辞典』は、なじみの薄いベルベル語の存在を、まず初めに日本の読者に把握してもらうのがその主旨であり、第1部ではベルベル語全般についての概観を取り上げた。ベルベル語の変種を文字化した第2部は, 各国のベルベル語研究者の方々にも目を通していただき、様々なバリアントを収録することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ベルベル語の影響を少なからず被っているモロッコのアラビア語が他の方言と違う点は、まず第一に、ベルベル語からの借用語が多いことである。実のところアラブ人もベルベル人もこの事実に気づいてはいない。そして彼らが日常生活で使っている単語の多くはベルベル語起源だと認識していない。 いっぽう「語彙」という観点からして、標準アラビア語の単語がモロッコ・アラビアでは意味が転じて使われている例がある。また同じ語源の単語が、アラビア語の方言によって違った意味になる場合がある。またモロッコ方言では正則アラビア語のbait を「家」の意味ではなく「部屋」の意味に使用するが、ベルベル語ではaxamを「家」と「部屋」両方の意味に時に応じて使い分けていることから、モロッコ方言の特異性はベルベル語に由来していることが指摘できる。 さらにモロッコアラビア語自体も南北の格差がある。具体的には、モロッコ南部の住民はフランス語、北部ではスペイン語といった具合に、それぞれ耳から覚えた外国語を日常生活で借用して使用している また日本語や多くの言語では、形容詞で相違を示す語彙が独自の形態を有している例があり、アラビア語でも同じような傾向がみられるが、ベルベル語はそれ以上に識別された語彙が豊富である。こうした事実を具体的な語彙を取り上げて示すためのフィールドワークを実施する。 さらにこれまでの研究調査で確認したその他の言語的特質をふまえ、今後はベルベル語に起源をもつモロッコアラビア語の語彙を抽出し、語彙としての一覧表を作成したい。
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Causes of Carryover |
パンデミックのため2021年度は渡航ができなかったことから、科研費の使用はなし
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