2020 Fiscal Year Research-status Report
A composite approach to Middle Indo-Aryan assimilation: Assessing the validity of the consonant hierarchy
Project/Area Number |
20K00620
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
鈴木 保子 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (00330225)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | Asokan Rock Edicts / Middle Indo-Aryan / consonant clusters / assimilation / consonant hierarchy / phonotactics / consonant changes |
Outline of Annual Research Achievements |
本プロジェクトは、2017-9年度の科研費プロジェクト「インド・アーリア語子音結合の変化―通時的・共時的視点から」の継続で、前プロジェクト期間中にアショーカ王岩石法勅の6方言に見られる子音結合の変化を網羅的に精査した。本プロジェクトでは、その資料を踏まえて、中期インド・アーリア語の同化が子音階層を基盤に画一的に定義できる特異なものではなく、他の子音結合の変化と合わせて通言語的に頻度の高い、自然な変化の集積であることを示す。 この仮説の検証のため、2020年度は最初期の中期インド・アーリア語であるアショーカ王碑文のうち、方言間の違いが明確に現れている岩石法勅に着目して、西・北西・北・東の4つの地域の計6方言の全ての子音結合の発達をまとめた。異なるタイプの子音結合の変化では、西・北西が構成する西部方言と北・東が構成する東部方言の大きな違いに加えて、西部・東部それぞれで2つの地域の違い、さらに、北西の2方言間にも違いが認められ、それぞれの子音結合がそれぞれの地域で独自の発達を遂げたことが窺える。具体的には、rを含む子音結合では後続する歯茎閉鎖音がそり舌音になるが、その割合は北西および東の4方言で顕著で、西では低く、北ではその中間というように、北西と西が構成する西部と北・東が構成する東部に分かれるわけではない。また、m vを含む子音結合ではこれら唇音の閉鎖音化が異なる方言で異なる形態で現れており、東では閉鎖音の後ろ、北西では歯擦音の後ろ、北・東ではhの後ろである。反面、さまざまな変化に共通して、進行同化に対する逆行同化の優勢・音節の最初の子音の優勢など通言語的な傾向が明瞭に認められる。方言間・異なる子音結合の間に変異が確認できる岩石法勅の子音結合の発達のより精緻な解釈は、中期インド・アーリア語の子音結合の発達の解明に有意義である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は以下の3つの論考に取り組んだ。 (1) The development of labial clusters in the Asokan Rock Edicts アショーカ王岩石法勅で、唇音m vを含む子音結合がさまざまな方言で異なる条件下で閉鎖音に変化する現象を扱った論考は、Studia Orientalia Electronica(Albion Butters氏編集)に採用され、掲載予定である。 (2) The development of r-clusters and syllabic r in the Asokan Rock Edicts アショーカ王岩石法勅の6方言におけるrを含む子音結合および音節主音的rの発達とrに後続する歯茎閉鎖音のそり舌化の傾向をまとめた論考は、前科研費プロジェクト期間中に投稿したものが、2020年度に修正の上、採用された。George Cardona教授の記念論文集(Peter Scharf氏編集)に掲載予定である。 (3) The development of consonant clusters in the Asokan Rock Edicts 岩石法勅のそれぞれの方言における異なる発達を子音結合のタイプ別にまとめ、子音結合の発達の包括的な分析および解釈を試みた。これは前プロジェクト期間中に出版された2論文および上記(1) (2)を組み込んだ著書となる予定で、次年度以降に継続する。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)The development of consonant clusters in the Asokan Rock Edicts すでにできあがっている原稿を修正し、特に1章Introductionは先行研究の纏めと問題点の指摘、8章Conclusionsは資料の解釈を中心に補強し、新たに気づいた先行研究を踏まえて分析・解釈に改良を加える。この論考の趣旨は、中期インド・アーリア語の同化は子音階層に基づくものではないが、そのような外観を呈するのは一般的な(特異ではない)音韻的傾向の集積であることを示す。 (2)Interpretation of orthography and r-metahtesis in the Asokan Rock Edicts アショーカ王碑文北西方言に見られる、いわゆるダーディック諸語のr音転換(rと前の母音または後ろの子音との音転換)に関連して、より後の時期のガンダーラ語やニヤ・プラークリット語文献の子音結合の変化の検証と音転換の類型論的な研究に基づいて解釈する。 (3)Old Indo-Aryan gemination and its relevance to Middle Indo-Aryan assimilation 中期インド・アーリア語の同化の先駆けとされる後期ヴェーダ文献に見られる重子音化の現象を一次文献に基づいて精査し、一般的に受け入れられている中期インド・アーリア語の同化との関連を検証する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス蔓延により、計画していた出張を中止し、主に海外からの発送となる書籍購入もしばらく控えていたため、支出は予定した額を下回った。反面、この状況に柔軟に対応して、2017-9年度の科研費プロジェクトの継続である本研究では、すでに収集した資料をもとに2020年度は論文執筆を優先させたため、支出は英文校正の割合が大きくなり、資料入手が滞ることにより研究に大きく支障をきたすことはなかった。余剰分は、主に、購入を一旦控えていた研究資料・書籍購入に充てる。
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