2022 Fiscal Year Research-status Report
A composite approach to Middle Indo-Aryan assimilation: Assessing the validity of the consonant hierarchy
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20K00620
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Research Institution | Kansai Gaidai University |
Principal Investigator |
鈴木 保子 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (00330225)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | the Asokan Rock Edicts / Middle Indo-Aryan / Gandhari / Khotan Dharmapada / consonant clusters / assimilation / consonant hierarchy / metathesis |
Outline of Annual Research Achievements |
ガンダーラ語では、いわゆるダーディック諸語のr音転換が、初期のアショーカ王碑文北西方言や中期のホータン・ダルマパダおよび他のカローシュティー文字の文献に見られる。先行研究では、特に前後の他の子音とのr音転換が綴り字上の問題で実際の発音は異なるのではないかと疑問視されてきた。ところが、子音結合の発達を検証すると、消失する傾向がある子音結合がr音転換により閉鎖音+rなど比較的安定している子音結合に変化する傾向が顕著であるため、音転換はより無標な音構造への推移と解釈することができる。従って、綴り字に見られるr音転換は実際の音変化を反映している可能性が高い。初期ガンダーラ語では尾子音のrはすべて前の母音または後ろの子音との規則的な音転換により頭子音の位置に移行しているのに対して、中期では散発的で、rCからCrへの変化のみならず逆方向の変化も観察される。すなわち、初期では尾子音のrが許容されないという、より進化した特徴があるのに対して中期では尾子音のrが許容されるという古い特徴を残していることから、初期と中期のガンダーラ語は早い時期に分岐したと帰結できる。 さらに、前述のカローシュティー文献におけるrを含む子音結合の発達を精査する中で、綴り字に見られるr音転換の他に、中期では、rが閉鎖音・摩擦音などから子音の前の位置で新たに発達した。先行研究ではこのようなrが重子音を示す補助記号としているが、一般的にrは舌頂閉鎖音または摩擦音と交替するため、少なくともこの一部は実際の発音を反映していたと考えるのが妥当である。rは調音方法ではふるえ音・弾音・接近音・摩擦音、調音点では歯茎・そり舌・口蓋垂など、環境や方言・言語により音価が多様であるため、ガンダーラ語でも同様にヴァリエーションがあったと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
中期インド・アーリア語における子音結合の変化の過程を明確にする目的で、その発達段階を示すガンダーラ語およびアショーカ王岩石法勅のrを含む子音結合を精査するにあたって、以下の3つの問題が生じた。第一に、ガンダーラ語では表記上のr音転換が実際の音変化を反映しているかどうかについては合意がない。第二に、中期のガンダーラ語で新たに発達したrCが音声的には重子音とする解釈がある。第三に、西部ギルナールのアショーカ王岩石法勅に残存するrを含む子音結合は同時期の言語的特徴を反映するものではなく、サンスクリット語の影響と考えられている。中期インド・アーリア語の子音結合の発達過程をアショーカ王岩石法勅およびガンダーラ語文献をもとに明らかにするには、 (1) ガンダーラ語のr音転換は音変化である(上記「研究実績の概要」参照、最終段階)(2) 中期のガンダーラ語で新たに発達したrCは少なくともその一部は表記通りの音変化を反映している(上記「研究実績の概要」参照、進行中)(3)ギルナールのアショーカ王岩石法勅に残存するrを含む子音結合は当該言語内部の発達である(下記「今後の研究の推進方策」参照)、の3点を論ずる必要がある。これを踏まえて、中期インド・アーリア語の子音結合の発達は、多くの先行研究で要因とされている子音階層は原因ではなく結果であることを示すことができる。研究計画の遅れは当初予測しなかった上記の問題が生じたことに起因する。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 初期ガンダーラ語のrを含む子音結合の発達では、アショーカ王岩石法勅のシャーフバーズガリーとマーンセーフラーの違いや、ホータン・ダルマパダと同時期の他の文献との違いを社会言語学や方言学の知見をもとに解釈する。また、中期ガンダーラ語のrCの表記が音変化を表しているかまたはrが重子音の補助記号として機能しているかを検証する。 (2) ギルナールのアショーカ王岩石法勅にrを含む子音結合が見られるのは、同時期の周辺地域の碑文ではこの子音結合が簡略化されていることを根拠に、一般的にはサンスクリット語の影響とみなされている。ところが、より後の時期とは異なり、サンスクリット語の影響は碑文が造られた紀元前3世紀には一般的ではないうえに、ギルナールの碑文に残存するCrまたはわずかなrCは他の地域の岩石法勅との類似性が観察される。従って、ギルナール碑文に見られるrを含む子音結合は他言語の影響ではなく、より早い時期の言語特徴が公用語または行政用語に残っていたと考えるのが妥当であり、子音結合の発達過程を反映する証拠となる。 (3) 中期インド・アーリア語では同化をはじめとした様々な変化により、子音結合のタイプが重子音・鼻音+閉鎖音など無標なものに限定されるようになった。先行研究ではこれらの変化は子音階層に起因するという解釈があるが、一般的な傾向に合致した、多数の独立した変化が長期間にわたって起こった結果であって、子音階層は原因ではない。
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Causes of Carryover |
余剰分はもともと次年度からの前倒し請求分の一部であり、研究資料収集および書籍購入に充てる。
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