2021 Fiscal Year Research-status Report
言語生態学的視点に基づく日本語危機方言活性化のための理論と実践に関する統合的研究
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20K00640
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
大野 眞男 岩手大学, 教育学部, 嘱託教授 (30160584)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹田 晃子 岩手大学, 教育学部, 准教授 (60423993)
小島 聡子 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (70306249)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会言語学 / 方言活性化 / 言語生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度研究実績は、令和2年度に引き続き、コロナ禍の影響により現地調査が大きく制限されたことにより、理論的側面の研究が中心となり、言語生態系の調査及び実践に関わる研究は計画通りに進めることができなかった。 1)言語生態系調査の前提資料として、対象地域の近未来の人口動態把握のための基礎資料整理を継続した。 2)ユネスコ言語体力調査の項目を踏まえて、次の段階の方言復興の可能性育てるための新たな言語生態系評価尺度として、令和3年度に継続して、①対象地域の人口動態、②伝統的言語文化遺産状況、③住民の地域アイデンティティー状況、④共通語と方言の併用状況、⑤方言学習材の有無、⑥学校教育での方言の扱い、⑦公共施設の方言愛称や方言グッズ(commodity)の状況等を含む評価尺度の検討をさらに進めた。また、昨年度まで参考にした先行研究に加えて、Coupland, N. (2007). Style: Language Variation and Identity、Eckert, P. (2018) Meaning and Linguistic Variation、Bassiouney, R. (ED). (2018) Identity and Dialect Performance: A Study of Communities and Dialectにおいて示された、アイデンティティー表出のための方言の方略的使用の観点を評価尺度に盛り込むことを方向づけた。 3)文化庁主催の令和3年度「危機的な状況にある言語・方言サミット」(気仙沼大会・オンライン開催)において、研究代表者が研究成果の一部を「被災地方言の状況と保存・継承の取り組み」として報告した。 4)釜石市の方言昔話グループと連携して、公立小学校・図書館・公民館で方言昔話を語る会を開催し、地域の言語文化としての方言の役割に気づく機会を設けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き、コロナ禍のため出張が大きく制約された状況にあり、方言の社会的使用領域および共通語との併用状況等に関する調査を実施することが困難であり、特に琉球方言域の調査と協力者との協議が滞ったことが理由である。 当初の予定では、方言の使用領域および共通語との併用状況に関する調査を踏まえて、新たな言語生態系評価尺度の構築に臨む計画であったが、評価尺度の構築を先に進めて、コロナの感染状況が落ち着いてから臨地調査を伴う研究活動を展開させることとした。これにより、方言復興の理論的側面に関する内外の先行文献にもとづく研究は大きく進展させることができた。上記の研究実績報告2)でも述べたように1980年代から直近に至るまでの危機言語・方言の復興に関する文献を網羅して、本研究の生態言語学としての位置づけと復興のための言語生態学的評価尺度の方向性を確定することができた。とりわけ、①方言の地域アイデンティティー表出機能の積極的評価、②教育に利用可能な方言学習材の作成、③コミュニティーの方言への心的態度の改善を促す機会の設定が、方言復興への重要なキーとなることを内外の先行研究において確認することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、復興のための言語生態学的評価尺度の完成を優先して研究を進め、言語生活の現状調査の部分についてはコロナ感染状況の落ち着きを待って実施に移していくこととする。具体的には、コロナによる移動の制約が大きくない岩手県を中心とする東北方言地域での言語生態学的評価を優先して進め、琉球方言地域の方言と共通語との併用状況等に関する調査については、対象年齢層を次世代の言語生活を担う若年層世代に限定する、加えて調査手法を協力者に委託した通信調査に変更する、等の工夫を行うことによって、最低限必要な情報を確保することも検討する。 併せて、対象地域の評価結果に基づき、どのような観点が方言活性化支援に際して有効な領域となりうるかを明らかにし、地域に合わせたオーダーメードな具体的支援活動を提案・実施する。また、可能な限り次世代を育成する学校教育との連携を深め、地域文化を象徴する方言を次世代に残していくための学習材開発や教育実践についても可能性を模索していく。 加えて、岩手県で戦前期行われた郷土教育運動で県下の全尋常小学校で作成されたまま活用されていない潜在的地域学習材「岩手県郷土教育資料」の方言関係の項目の掘り起こしを進め、地域の学校教育・社会教育で利活用可能となるような学習材の開発を目指す。
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Causes of Carryover |
令和3年度は、新型コロナ感染症の拡大により県境を越えた出張を伴う調査研究をほとんど実施不能であったため、研究内容が理論面を中心とした研究に限られてしまい、大幅に次年度使用額を生じる結果となってしまった。令和4年度事業において、フィールド調査を伴う研究の遅れを取り戻すように努力するが、感染症の動向次第では、科研費の研究期間を1年繰り延べにして研究を完結させることも視野に入れて、今後の使用計画を策定する。
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Research Products
(1 results)