2023 Fiscal Year Research-status Report
言語生態学的視点に基づく日本語危機方言活性化のための理論と実践に関する統合的研究
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20K00640
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
大野 眞男 岩手大学, 教育学部, 嘱託教授 (30160584)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
竹田 晃子 岩手大学, 教育学部, 教授 (60423993)
小島 聡子 岩手大学, 人文社会科学部, 教授 (70306249)
仲原 穣 琉球大学, グローバル教育支援機構, 非常勤講師 (60536689)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 社会言語学 / 方言活性化 / 言語生態学 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度研究実績は、令和4年度に引き続きコロナ禍により現地調査が大きく制限され続けたことにより、沖縄での方言次世代継承に関する調査・実践が進捗しなかった。その一方で、岩手県域での調査・実践として、昭和初期に岩手県下の尋常高等小学校で郷土教育運動の一環として方言調査も含めて実施され、現在は岩手県立図書館に所蔵されたまま一般には公開されていないガリ版刷りの膨大な報告書群「岩手県郷土教育資料」について、方言を含めた言語意識啓発の学習材としての価値を伝えるために、市民対象のシンポジウム形式で報告会を行った。 報告会は、岩手大学人文社会学部宮澤賢治いわて学センターの第4回シンポジウムと兼ねる形で2024年3月23日に行った。大野眞男「岩手県における郷土教育運動の展開と郷土教育資料」は、岩手県における郷土教育資料の形成過程について近代教育史的観点から報告した。小島千裕(研究協力者)「教育関係者による地域のことばをめぐる議論の始まり―明治30年代以降の『岩手学事彙報』を中心に―」は、昭和期の郷土教育資料に至るまでの主として明治期学校教育における方言に関する議論を紹介した。小島聡子「岩手県立図書館所蔵『郷土教育資料』の概要について」は、昭和15年に県下の各尋常小学校で作成された240点に及ぶ「郷土教育資料」の概要を、全報告の一覧表を添えて示した。竹田晃子「郷土教育資料に見る岩手県の方言」は、昭和11年以前及び昭和15年報告資料により作成したデータベースをもとに、昭和初期の岩手県下の方言分布状況を27枚の地図として再現した。これらの発表に加えて、コメンテーターを依頼した東京大学名誉教授・上野善道氏による詳細なコメントと評価をいただいた。 シンポジウムの内容は、令和6年度に一般市民の方が書店で手に取って方言に関する意識啓発の学習材として使っていただけるような地方出版物として刊行することとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に引き続き、コロナ禍のため出張や対面活動を要する調査活動が大きく制約された状況が続いたため、方言の使用領域及び共通語との併用状況等に関する調査を実施することが困難であり、特に琉球方言域の調査と協力者との協議が滞ったことが理由である。このため、当初は本年度が最終年度となる予定であったが、補助事業期間延長の再申請を行い、これが承認されたため、事業期間をもう一年延長して北東北域と琉球域の言語生態系評価と方言活性化のための今後の方略づくりに取り組むことにした。
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Strategy for Future Research Activity |
令和6年度は、方言活性化の可能性を育てるための言語生態系評価尺度を用いて、北東北地域及び琉球方言地域での言語生態学的観点にもとづく方言活性化に向けたオーダーメイドな方略策定の作業を進めていくこととする。具体的には、北東北地域においては、岩手県釜石市での方言昔話の語りを通じた方言活性化支援事業を継続して進め、これまでの経験から必要性が認識されてきた、学校教育を含めた地域行政の方言への関心状況の改善に注力することで、地域アイデンティティーと連動させて地域方言に対する意識の向上に努める。併せて、岩手県下で戦前期に行われていた郷土教育運動で全県下の尋常小学校で作成されたまま活用されていない潜在的地域学習材「岩手県郷土教育資料」の方言関係の項目の掘り起こしを進め、地域の学校教育・社会教育で利活用可能な新たな方言学習材の開発を行う。また、琉球方言地域においては、前年度までは研究協力者であった沖縄在住の仲原譲氏を研究分担者に据え直し、仲原氏を中心にして沖縄県での言語生態系評価と方言活性化のための今後の方略づくりを効率的に進めることとした。
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Causes of Carryover |
令和5年度も、新型コロナ感染症の拡大により県境を越えた出張や対面活動による調査研究を行うことがほとんど不可能な状況であったために、研究が岩手県の郷土教育資料の掘り起こしを中心とした内容に限られてしまい、大幅に次年度使用額を生じる結果となった。令和6年度事業においては、フィールドワークやオンラインも含めた定期的な研究会の開催により、旅費の執行を伴う研究の遅れを取り戻すように努力する。
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Research Products
(4 results)