2020 Fiscal Year Research-status Report
近代日本語史における「ひらがな」を中心とする文字認識論的研究
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20K00643
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
山田 健三 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (00221656)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 葛原勾当日記 / 印判印字システム / 仮名システム |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画で掲げた「近世末~近代初期(幕末明治期)における「平仮名」の共時的実態の記述と解釈」につき、具体的な観察対象として『葛原勾当日記』を採り上げることを述べたが、これについては、現在研究分析継続進行中であるが、関連する2つの研究成果(論文)を今期公表した。1つは『葛原勾当日記』で用いられている印判印字による仮名システムの詳細を、印字器具の計測データや、印字実態(印影)から明らかにした研究論文「葛原勾当日記の印判印字システム:印影および現存印判調査結果を中心として」(『信州大学人文科学論集』第8号第2冊、2021年3月)である。この研究は、当該文献の画像データと、盲人である筆者の当該文献作成のために考案された平仮名活字による印判など印字用具一式の現物所蔵元での実地調査結果を踏まえ、次の諸点を明らかにした。1)印判の実物は、システマティックに配列された、平仮名48文字(いろは+「ん」+「し」の異体仮名「志」)および漢数字(一~十)「正・月・日・同」の4漢字の計63の活字印判と、その他配列外の個別記号や異体仮名、漢字(御候・御奉)などが現存する。これらがどのようにシステマティックに使用できるようになっていたのか、を明らかにした。2)印影から2種類の平仮名印判セットが存したことを初めて実証的に明らかにし、現存する印判活字はその内の一種であることを指摘した。このように本資料の基礎的・基盤的な足固めを行った。 また、より大きな視点から本資料を位置づけるための研究として、日本語史分野において永く、そして多くの研究の蓄積のある仮名遣問題を「仮名システム」として捉え直し、表音節文字たる仮名と、日本語の音節変化との関係を「仮名がうごく」という視点から論じた。これについては「仮名がうごくということ:仮名システムとしての仮名遣の原理」(『ことばの研究』13号)として公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度はコロナ禍の中でスタートしたので、実地調査、また研究室の自由な利用などが危ぶまれ、研究の力点を資料収集や学術情報収集にシフトせざるを得ない状況になるなど、若干の計画変更を余儀なくされた。そのため、実施予定よりは遅れたものの、一回はデータの採取・確認のための実地調査(広島)に赴くことができ、最終的には、そのデータを基に「葛原勾当日記の印判印字システム:印影および現存印判調査結果を中心として」(『信州大学人文科学論集』第8号第2冊、2021年3月)という報告を完成・公表することができたので、当初目標は達成できた。その上で、より大きな視座から仮名システム全体を論じた「仮名がうごくということ:仮名システムとしての仮名遣の原理」(『ことばの研究』13号)という論考を執筆し公表することができた。これは、従来の研究計画の視野を更に広くした内容であり、今後の研究遂行に益する視点を得られたものと考えている。研究成果の公表という観点からすれば、また、より進んだ研究視点が得られた、という観点からは「計画以上」ともいえるところである。 しかし一方、やはり実地調査に出づらい状況が継続中である中、データ整理はやや滞っている。これについては、当初計画からすれば、やや遅れていると言わざるを得ない。感染状況が落ち着き、可能であれば今期に資料調査および学術情報収集に出たいところである。 また、新たに対照データとして用いるべき日記資料の写真版も、所蔵者との丁寧な交渉の末、2種(1841[天保12]-1866[慶応2] 『角田桜岳日記』と、1843[天保14]-1863[文久3] の『袖日記』(富士宮市指定有形文化財))入手しえた。資料収集は順調に計画通り進んでいる。 以上述べ来った状況から、2020年度は、結果として「おおむね順調に進展している」という評価が妥当であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、もう一つの研究対象である日本国憲法成立期の関連資料の収集整理を行いつつも、今期に集中的に行った『葛原勾当日記』の分析を通して得られた成果を更に進展させた研究を発表するべく、目下分析中である。この分析作業は、①当該テクストを中心としたものと、②同時期の他の文献資料(手書きの日記文献)との対照研究との、①②両面からのアプローチを考えており、そのための分析作業には、そのデータ量から考えてまだ数年は有するが、推進のために成果の公的発表(口頭発表、論文投稿)の機会を多く得る予定である。ただ、特に論文公表のためには、精確を期すための実地の確認調査が必要であるが、残念ながらコロナ禍が全国的に拡大している中、移動を伴う実地調査がどこまで可能かは不明とせざるを得ない。これについては、状況を見ながら可能な範囲で調査を試みたい。
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Causes of Carryover |
購入物品の割引などから生じた端数レベルの残額であり、次期購入予定の物品費等と併せて有効利用することとした。
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Research Products
(2 results)