2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00645
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐野 宏 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50352224)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
蜂矢 真郷 大阪大学, 文学研究科, 名誉教授 (20156350)
尾山 慎 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (20535116)
乾 善彦 関西大学, 文学部, 教授 (30193569)
内田 賢徳 京都大学, 人間・環境学研究科, 名誉教授 (90122142)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 仮名 / 表記体 / 二次的表語性 / 万葉集 / 訓字 / 上代語 / 歌の解釈 |
Outline of Annual Research Achievements |
covid-19の影響から進捗に遅れが出たが、オンライン会議を活用し、計画を一部変更するなどして対応した。今期は特に万葉集の表記体分析を中心としつつ、語彙研究、万葉集歌の解釈研究で成果を得ることができた。表記体分野については、なお本文異同などを考慮する必要もあるけれども、概ね次のような見通しを得ることができた。語としての使用例が500例を超える基本語彙を中心にその表記を観察すると、その語を表す訓字が固定的で、なおかつ仮名表記の文字列においても頻用の表記体がいずれの語についても存在することが改めて確認された。経験的にも先行研究でも我々の観点とは異なるが、断片的に指摘されてきていたことではあるが、たとえば、万葉集では「いも(妹)」(妹山、妹背山を除く)は全690例中、妹553、伊毛73、*和伎毛16、伊母33、*和伎母8、異母1、移母1、以母1、方言形4(数字は用例数)、「はな(花)」は全467例中、花359、波奈91、婆奈9(々々1例)、婆那1、波那2、半奈1、伴奈1、播奈2、芳奈1とある。仮名表記例を縦軸に使用度数、横軸にその序列を一位から順にならべると頻度第一位の表記体が全体の50%以上を占め、三位以下は散発的で稀な出現に留まる。 「花」を表す「は・な」の二音節語は各音節に対応する字母のいずれを自由に選択したとしてもその音節列を表示する上では問題がない。自由な用字選択が行われるなら、言語学的分布予想から出現順位と使用度数がZipf構造をもつことが考えられた(日本書紀歌謡はこちらか)。しかし、事実はそうではなかった。確かに各音節に常用の仮名字母があったと仮定することもできるが、常用という単音節仮名の汎用性は必ずしも機能性といえない点を考慮すれば、やはり仮名表記中にその文字列の機能負担、すなわち「語の表記体」としての二次的表語性を獲得している可能性を考えるべきものと思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初covid-19の影響から進捗に遅れが出た。これはお互いのデータの共有という点で対面式の検討会が開催できなかったことに依る。そこでSlackとZoomを用いてデータ共有を日々更新しつつ、オンライン検討会を毎月開催し、その進捗の遅れを取り戻した。 結果的に個々に課題を持ち帰って、それぞれが自分の研究環境にあわせて計画変更を試みたことで、当初予定とは異なるけれども、全体としてみた場合には十分に進展させることができた。とくにSlackなどでデータの即時共有ツールを活用した点で、暫定的なデータであっても互いに意見を言い合うことで早い段階から修正ができ、結果的に無駄が少なかったということがあげられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今期の調査で万葉集について訓字表記の固定性とその仮名表記での固定性が相関することが確かめられた。使用度数の高い基本語彙を中心にしたために、経験的には当然と思われる結果であった。しかし、当初予想では訓字表記の固定性は漢字の一時的表意性から収斂しやすいとはみられたが、仮名表記はあるいはZipf構造をもって、バイアスのない自然な分布をするとみていた。実際は仮名表記の用字法に制限がかかっている。これは上代特殊仮名遣いが漢字音を参照しなくても「仮名文字遣い」として維持される可能性を示している。R3年度は当初計画通りに訓点資料、日本書紀、古事記に調査を拡張し、R2年度に保留した訓字表記の性質に注力する。あわせて、一音節語についてはやや特殊な分布をする例もあるため、それらの一群については、分担者と協議しつつ、さらに検討を加える。 また副産物ながら、万葉歌の解釈や訓詁についての新知見も得られたので、順次そうした成果については論文発表を行う。
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Causes of Carryover |
covid-19の影響で調査のための出張が制限されたことによる。本来ならさらに繰り越す予定であったが、オンライン会議用にノートPCは企画を統一して購入し、図書館利用が制限されたためにやむを得ず資料を追加購入するなどしたことで、結果的に上記の残額になっている。
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Remarks |
(1)蜂矢真郷執筆、三省堂ワードワイズ・ウェブ
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Research Products
(8 results)