2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00645
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐野 宏 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (50352224)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
蜂矢 真郷 大阪大学, 文学研究科, 名誉教授 (20156350)
尾山 慎 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (20535116)
乾 善彦 関西大学, 文学部, 教授 (30193569)
内田 賢徳 京都大学, 人間・環境学研究科, 名誉教授 (90122142)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 表記体 / 仮名 / 訓字 / アクセント / 二次的表語性 / 一次的表意性 |
Outline of Annual Research Achievements |
主として訓点資料(日本書紀古訓を含む)を中心とした訓詁による表記体分析(表記に対応する語彙と語構成の検討)を進めた。訓字表記の傾向を観察し、その固定性や典拠語のあり方を記述する中で思わぬ発見があった。たとえば、「沈」「鎮」はいずれもシヅムと訓じられるが語頭アクセントが異なり、シタ・シモ「下」の語構成とも相俟って「沈」と「鎮」のシヅムは語形成上は別語であるとみられる。この一連の検討の中で、アクセントの表示という観点から表記を観察する視点が得られた。万葉集では音節単位の変字法を含めても、語の仮名表記が二次的表語性を獲得する中で固定的な文字列による「語の表記体」を形成する傾向にある。その場合、アクセントと仮名字母選択が相関するか否かの検証が必要である。とくに日本書紀歌謡で確認できる「仮借」由来の借音仮名群、単音節の借訓仮名群がアクセントとの相関の有無の検証は計画にはなかったが、新視点として今期に得られた結果である。仮にアクセントに対応した仮名表記があれば、より「仮借」的であるといえようし、原音声母と無関係に清濁に両用するのはより「仮名」的であるということになる。加えて、日本書紀、古事記、萬葉集の「語の表記体」を観察すると、借音仮名にあって「妣」のように清濁仮名の両用例が散見される。「妣」は木下正俊(1965)「手火の清濁」(『萬葉』56)の指摘があるが、橋本四郎(1959)「「ことば」と「字音假名」―上代語の清濁を中心に―」(『萬葉』30号)が指摘したように表語性との関わりから課題が多い。アクセントや清濁の表記は語の表記体中の「仮名」であることを示す点で、仮名の用法から仮名の文字への転換の指標になるのかもしれない。今期は学外調査が十分に行えない環境であったが、Zoom、slackを活用して一定の成果を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ疫の影響から学外調査が十分に行えず、対面による検討会は一度も開催されなかった。しかし、当初計画通りに進捗させつつ、次年度予定のものを先に着手するなど、計画を変更することで、全体計画においては概ね順調に進捗している。とくにZoomやslackを活用し、分担者の情報共有がより綿密に行えるようになったことで、毎月1回の検討討論会はほぼ年間を通じて達成できた。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度も今年度と同様にZoomとslackを併用したリモートによる検討討論会を開催しつつ、全体計画を修正しつつ対応する。副次的に得られた研究成果報告も積極的に行うことで、より総合的な分析的視点から研究の新たな手法を開発する。また、今期に得られた新知見は全体の結論にも大きく関与するため、学外調査が十分に行えない場合には新たな仮説に 基づいた検証と分析を試みることとする。
|
Causes of Carryover |
文献調査による出張と、対面での研究会開催を延期したことによる。
|
Research Products
(5 results)