2021 Fiscal Year Research-status Report
Syntactic approach for modality of Japanese language
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20K00646
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
宮崎 和人 岡山大学, 社会文化科学学域, 教授 (20209886)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | モダリティ / 構文論 / 可能性 / 恐れがある / 危険がある / 懸念がある |
Outline of Annual Research Achievements |
日本語の研究では、一般言語学とは異なり、いわゆる可能や可能性はモダリティではないとされる。これはモダリティを話し手の心的態度や主観性と規定する習慣があることによる。その結果、日本語の可能文の研究は多くの課題を残すことになっている。その課題のうち、本年度は、可能性を表す文のいくつかについて記述的研究を推進し、可能性を表す文のパラダイムに関する見通しを得ることを目的とした。具体的には、「恐れがある」「危険がある」「懸念がある」という3つの合成述語をもつ可能性を表す文を対象として、新聞記事(1984年~2020年)の用例調査にもとづく記述的研究を行った。時間的限定性やテンポラリティを重視する方針は、これまでと同様である。その結果、以下のようなことが明らかになった。 これらの3つの可能性を表す文は、未来によくないことが生じる可能性があることを表すという基本的なモーダルな意味と多くの例が条件的あるいは原因的なつきそい文をともなうという条件可能の特徴を共有している。形式自体にテンスやみとめかたの対立があること、動詞の形態についても、みとめかたの対立があり、完成相非過去形(スル形式)が大多数を占めることが共通に認められる。さらに、調査対象期間において徐々に完成相非過去形以外の有標形式(継続相や過去形)が出現するようになる変化が共通にみられるが、その変化がもっとも進んでいるのは「恐れがある」であり、「危険がある」はまだ過去形の例をみない。時間的限定性の点では、「危険がある」がポテンシャルに偏るのに対して、「恐れがある」「懸念がある」はアクチュアルに偏るが、「恐れがある」にはポテンシャルの例もある程度みられる。「危険がある」「懸念がある」に比べ、「恐れがある」は名詞の意味の抽象化が進んでおり、この三者のなかではもっとも一般的な可能性の表現であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(理由) 公表した論文は1編であるが、この論文には、「恐れがある」「危険がある」「懸念がある」の3つの可能性を表す文の考察が統合されており、分量的にも大部である(400字詰めで100枚を超える)。大量の用例の観察にもとづく実証的な考察により、内省では気づきえない、いくつかの重要な事実の発見があった。これらが類義であることは直感的にも分かるが、これらの類似点として、条件可能という特徴を共有していること、比較的短期間のうちに動詞の形態(テンス面)の拡張が進んでいることを、また、これらの相違点として、時間的限定性に関する特徴を指摘できたことは、大きな成果であった。本年度の研究成果は、本研究の準備段階から、可能文の記述にはテンポラリティや時間的限定性への注目が重要であると主張してきたことを証明するものであり、準備段階で考察した「疑いがある」に加え、これら三者についての考察結果を踏まえて、より一般的な可能性の表現である「可能性がある」についてアプローチすることで、可能性を表す文のパラダイムの中心部分を明らかにできる見通しが得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画では、次年度は、possibility以外の客観的モダリティへと視野を広げ、「することがある」「しやすい」「しにくい」「しがちだ」などが表すexistential modality(存在的モダリティ)や時間的なありか限定に関する意味を考察する予定であるが、本年度の可能性を表す文についての研究に手応えがあったので、この研究をもう一段深めたのちに、それらのテーマに移ることにしたい。なお、existential modalityについては、日本語学ではまだまとまった研究がなく(そもそもモダリティとみなす研究者がほとんどいない)、カテゴリー自体の位置づけも不明であるため、十分に時間をかけて取り組む必要があるということになったときには、その研究を最終年度まで延長し、最終年度に予定している認識的モダリティの研究を切り離すこともありうると考えている。
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Causes of Carryover |
前年度同様、新型コロナウイルスの感染拡大により、成果公表や意見交換等の研究活動のほぼすべてがオンラインでの実施となったり、アルバイターの雇用時間を確保できなかったりしたため、旅費や人件費・謝金で残額が出た。次年度の旅費や人件費・謝金に回すか、状況が改善しないようであれば、データ通信費にあてたいと思う。
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Research Products
(1 results)