2023 Fiscal Year Research-status Report
Syntactic approach for modality of Japanese language
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20K00646
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
宮崎 和人 岡山大学, 社会文化科学学域, 教授 (20209886)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | モダリティ / 構文論 / 可能性 / 否定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究課題の原点ともいえるモダリティの概念に関する議論と、これまで注目してきた「することもありうる」「疑いがある」「恐れがある」「懸念がある」「危険がある」などの「ある」型の可能性の形式に加えて、否定が絡むタイプの可能性の形式を初めて取り上げて記述的研究を行った。 まず、前者のテーマについては、日本語文法学会のワークショップ「日本語のモダリティ」において、指定討論者として、仁田義雄氏や益岡隆志氏らが構築、普及させてきた日本語のモダリティ論の標準理論に対して、別の考え方も提案されながら、統一理論に向けての議論が十分に進んでいない現状をどのように変えていくことができるかについて、様々な立場は「現実性」の概念を中心に一つにまとまることができるのではないかという「楽観的な見通し」と、モダリティ研究の立場の違いが構文論の根本問題(文の成り立ちを命題+モダリティと見るか、主語と述語の統合と見るか)に根差している限り、統一理論の構築はどうしようもなく困難となるという「悲観的な見通し」を述べた。 後者のテーマについては、可能性の意味の構成に否定がかかわっている形式として「限らない」を取り上げ、「~とは限らない」と「~とも限らない」に分けて記述を行った。結論として、いずれの形式も、結論を「する/しない」と限定することはできないと意味での可能性を表していること、そして、「する/しないとは限らない」は論理的に「する/しない可能性」があると捉えている(可能性の高低には言及しない)のに対して、「しないとも限らない」(「するとも限らない」はほぼない)は、可能性がゼロではないという捉え方が評価的感情と複合し、さらに、「いつ」などの疑問語を伴うことによって可能性が開放されることで、恐れの感情と結びつくというように、両者には、論理的・評価感情的という対立が生じていると考えられることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一般言語学では、ability(能力)、permission(許可)、possibility(可能性)は、モダリティとしての「可能」のバリアントと見なされるが、日本語の研究では、これらを括るカテゴリーの存在は想定されていない。本研究課題は、これらのすべてを可能文の研究対象とすべきことを主張し、特に可能性の研究に主眼を置いている。研究実施計画では、2021年度にその研究に集中的に取り組むことにしていたが、対象とする形式が非常に多く、また調査を始めてみると、予想していたことではあるが、時間的限定性・テンポラリティ・みとめかた・評価性に関して注目すべき事実が次々と見つかり、そうした成果を着実に残していく必要があると感じたため、対象を「ある」型の3つの形式に絞り、詳細な記述を論文として公表した。また、2022年度は当初研究対象として計画していなかった可能性を表す文がデオンティックな側面をもつ現象に関心をもったこともあり、可能性を表す文に関する記述的研究の続きは、2023年度に行うことになった。計画では、最終年度は認識的モダリティの研究を行う予定であったので、その部分が研究期間に収まらなくなった。
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Strategy for Future Research Activity |
日本語のpossibilityを表す文のパラダイムを明らかにすることやpossibility以外の客観的モダリティ(特に「することがある」「しやすい」「しにくい」「しがちだ」などが表すexistential modality(存在的モダリティ))、そして、alethicなものやdeonticなものを含めた総合的な可能文の研究は、2024年度に採択された別課題(基盤研究(C)「現代日本語における客観的モダリティとしての可能・可能性についての研究」)で展開することとし、本研究課題の最終年度に予定していた認識的モダリティに関する構文論的な研究を、研究期間を延長して実施することとしたい。そこでは、個々の形式(助動詞)の意味は何かを追求する伝統的な形態論的アプローチではなく、日本語の文は認識のしかたを区別するためにどのようなパラダイムをなしているかを明らかにしようとする構文論的・類型論的アプローチを採用する。
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Causes of Carryover |
研究期間の2年めに計画されていた可能性を表す文の記述的研究を十分に展開するには1年では足りないということが分かり、研究計画を見直して、最終年度にその続きを実施することにした。当初最終年度の実施を予定していた認識的モダリティの研究については、研究期間を延長して行い(申請・承認済み)、それに必要な経費も次年度に送ることとした。主に、資料の購入費や論文の抜刷作成費に使用する予定である。
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