2021 Fiscal Year Research-status Report
日英語の程度表現の微細構造および不定語のシステムとの関係
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20K00660
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邉 明 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (70265487)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 程度の全称量化 / 不定語 / 最小量表現 / 数詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、予定していた最小量表現に関する研究を進め、不定語による程度修飾との関連で論文草稿をまとめた。英語に見られる特殊な最上級の形で最小量表現が否定文に用いられるときに、主部名詞が指し示す個体が存在しないというニュアンスが生じるというFauconnier(1975)の古典的研究で観察された現象自体は、肝心の特殊な最上級が日本語に存在しないために、日英比較ができないのだが、Fauconnier の扱っている最上級の極性現象と類似のことが不定語による程度修飾で見られるので、日本語特有のこの表現パターンと英語に見られる特殊な最上級での比較を行った。英語の場合と異なり、不定語による程度修飾で不在のニュアンスが生じないというのが得られた結果で、その原因として、不定語による程度修飾が一定以上の程度に限定されて程度についての全称量化を行うことがあげられる、という仮説を提出した。全称量化に課せられている限定が、具体的にどの程度をもって最小量とみなすか、という基準をもとにし、この基準自体が最小量表現を伴う名詞が意味する個体の存在を前提としている、というのがカギとなる論理構造である。 上記の他、本年度は数詞関連について進展が見られた。この領域は当初予定していなかったものだが、まず、twenty-someのような不定の部分を含んだ英語表現を取り上げている研究に触発され、日本語では「三十何(個)」のように不定語を用いることに着目した。英語の場合と異なり、日本語では「三百何(個)」としても「何」が担う数値としては一桁に限られることを突き止め、「何」が不定の数詞として機能することに関連づけた。この成果は学会での発表を行った。 また、数詞自体の形態の問題にも取り組み、分散形態論の枠組みによる分析が和漢の形態の使い分けを極めて効果的に説明できることを論証した。論文草稿をまとめるところまで進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
論文草稿の形にしたり学会で発表したりすることができるところまで進展させた研究が複数あるので、2年間で十分な成果が出たと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
上記2本の論文の最終稿の完成をまずは目指す。不定語についてはこれまで取り上げたもの以外にも範囲を広げて、順次考察を加えていく予定である。また、程度のスケール構造についてのあらたな問題も、モーダルの形容詞の観点を軸にアプローチする計画にしている。本年度の大学院のセミナーにおいてモーダルの形容詞を取り上げているLassiter(2017)の研究を検討した結果、形容詞の下位分類などにも関わる重要なトピックとして継続して追求していくことを決定した。
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Causes of Carryover |
パソコンを更新しようとした段階で、残額がそれには不足していることが判明したので、次年度にまわしてパソコン購入のための予算確保に努めた。本年度について、申請の3分の2に減額されての研究助成になっていることも少ならからず影響している。
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Research Products
(1 results)