2023 Fiscal Year Research-status Report
日英語の構文ネットワークを基盤とした事態認知モデル
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20K00668
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Research Institution | Prefectural University of Kumamoto |
Principal Investigator |
村尾 治彦 熊本県立大学, 文学部, 教授 (50263992)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 日英比較 / 構文ネットワーク / 認知文法 / 増減表現 / 名詞志向・動詞志向 / アクセス・活性化モデル / 談話 / 自他動詞構文 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度までの成果を踏まえ、「NPが増える」、increased NPのような、日英語の増減表現パターンにおける2言語間の動詞志向性と名詞志向性の違いにおいて、他動詞構文、自動詞構文の考察(村尾2018a, b, 2022)で基盤にした英語に好まれるANP、日本語に好まれるTNPの2つのnatural pathが関与している可能性を検討したが、現時点では関連性を見いだせなかった。 そこで、談話レベルの観点から再検討することとし、日英語の増減表現、および他動詞文・自動詞文・間接受身文などの日英語の自他動詞表現をThe Access-and-Activation Model (Langacker 2012, 2016, etc.)の観点から分析し、各構文の特徴を、各構文処理においてアクセスする「処理枠(processing window)」の違いに還元できることを示した。このモデルでは、あらゆる構文が談話処理のパターンとしてみなされ、同じ概念構造が異なるやり方でアクセス、フォーカスされ、異なる意味を生み出すと考える。 さらに、前年度対応できなかった、繰り返しや継続を表す「NPを繰り返す]、「NPが続く」、repeated NP、continued NPタイプも考察に加え同様の成果を得た。 これによって、語彙、文法、談話まで一貫して扱えるThe Access-and-Activation Modelが、増減表現を含む動詞志向・名詞志向構文、自他動詞構文など、日英語の構文研究に幅広く効果的である可能性を示せた。 また、日本語の動詞表現の概念化パターンと英語の「名詞修飾表現+名詞」の概念化パターンとなるスキーマが増減表現以外の「多少」を表す表現などでも一貫して反映されていることを前年度に確認したが、構文ネットワークとして表し、構文ネットワーク上の活性度の違いに現れることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度については、他動詞構文、自動詞構文の考察で基盤にした英語に好まれるANP、日本語に好まれるTNPの2つのnatural pathが増減表現の日英語の表現パターンの違いに関与しているという結論にはいたらなかったが、文レベルの考察から談話レベルの考察に視点を移し、The Access-and-Activation Model (Langacker 2012, 2016, etc.)を援用することで、日英語の増減表現および、他動詞文・自動詞文・間接受身文などの日英語の自他動詞表現の特徴を同一モデルで分析することができた。これによって予定していた談話上での構文機能・特性の研究に進むことができた。 また、前年度積み残した繰り返しや継続を表す「NPを繰り返す]、「NPが続く」、repeated NP、continued NPタイプも同モデルで分析できた。さらに、構文ネットワークとしては部分的ではあるが、「多少」を表す表現などを含む増減表現を中心とした構文のネットワークを提示できた。 以上のように、今年度分については、計画していた研究をおおむね進めることができたが、前年度までのところで、新型コロナ感染症による研究の遅れや、今年度The Access-and-Activation Modelによる分析を導入したため、計画全体については、構文ネットワーク構築による分析の遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
他動詞構文、自動詞構文の考察で基盤にした英語に好まれるANP、日本語に好まれるTNPの2つのnatural pathによる構文分析では、現時点で日英語の動詞構文・名詞構文には効果的に適応できる見通しが立っていないため、日英語の自他動詞構文以外にも幅広く適応し、構文ネットワークに落としていくためのモデルを構築するために、R5年度に、日英語の増減表現、繰り返し表現、継続表現などの数・量・時間推移構文や日英語の自他動詞構文の構文特徴を、The Access-and-Activation Model (Langacker 2012, 2016, etc.)を援用して、「処理枠(processing window)」の違いから分析を行った。 今後はさらに、日英語の数・量・時間推移構文や自他動詞構文を対象に、より多くの談話データを収集して、The Access-and-Activation Modelの観点から、当該構文の談話内の前後関係から見た構文の特徴をどのように捉えられるのかを考察し、前年度までの分析の記述を精緻化していく必要がある。 また、このようなThe Access-and-Activation Model からの分析をより幅広く構文ネットワークとしての分析に拡張していけるかを検討し、研究の総括を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度から2023年度までの研究計画のうち、2020年度から2022年度までは、新型コロナ感染症により学会、研究会への対面参加が全くできなかったことや専門家を訪問あるいは招聘して意見交換を行う機会が持てず、旅費、謝金の支出実績がなかった。また、学会等での情報収集活動が十分できず図書等の購入が限定的であった。 2023年度には学会活動もコロナ前の状態に戻り、学会、研究会への対面参加が可能となったため、旅費の支出が計画通り進んだ。しかしながら、研究期間4年の内、2020年度から2022年度までの3年間における旅費、謝金の支出実績がなく、支出がほとんど計画通り進まなかったことに伴い、研究計画も遅れぎみとなり、進まなかった研究計画を実施するため、当初の研究期間を1年延長し、今年度分までの残額を繰り越した。 次年度は、認知言語学や構文研究、談話機能言語学、日英語比較研究に関する情報収集のための図書購入を引き続き行う。また、学会、研究会の参加や研究発表を予定しており、旅費の執行を計画している。
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