2020 Fiscal Year Research-status Report
機能範疇を伴う依存関係の包括的研究:「構造」「意味」「語用」の観点から
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20K00670
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
小畑 美貴 法政大学, 生命科学部, 准教授 (80581694)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中尾 千鶴 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (90795642)
谷 智子 東洋大学, 情報連携学部, 助教 (80638205)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 併合 / 転送 / 焦点移動 / モダリティ表現 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、母語における「構造構築及び言語使用の仕組み」を明らかにすることにある。特に①機能範疇を伴う依存関係に注目し、構造構築の要となる操作である「併合(Merge)」がどのように統語表示を生成し、その表示がインターフェイスにおいてどのように解釈を受けるか、「構造」「意味」「語用」の3視点より包括的な研究を行う、②更に①の研究成果を、ケーボ・ベルデクレオール(Carbo Verde Creole)を含む多様な言語データによって多角的に検証し、最終的には個別言語間差異を統一的に捉える言語システムの構築を目指す。 上述の研究目的を達成する為に、2020年度は以下の3点を中心に研究を行った。第一に、併合操作によって構築された統語表示はインターフェイスへと送られ、意味(語用)の部門へと転送操作によって送り出されると考えられているが、転送操作が個別言語間差異(主に日本語と英語)とどのように関係しているか、Saito (2017)の先行研究を考察した(小畑)。第二に、日本語の語の移動と省略に関する自身の過去の研究を比較し、「why剥ぎ取り構文」と呼ばれる現象と焦点移動に関して考察した。「太郎は納豆を食べたが、私はなぜ納豆を(太郎が食べたの)か分からない」のような文において、「なぜ+構成素」が残り、( )内が省略される場合、「なぜ」と共に削除を免れる構成素「納豆を」は焦点移動をするという分析を提案した(中尾)。第三に、公共表示に見られる「行為促進型表現」に関して,日本語とフランス語の比較を行った。主に,モダリティ表現および人称詞に注目して,発信者が受信者に特定の行為を促す際の語用論的ストラテジーについて分析し、日仏での相違点を明らかにした(谷)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は本研究プロジェクトの初年度であり、基礎研究の期間として位置づけているが、既に口頭発表3件と論文2本の研究成果が出ており、プロジェクトは順調に進んでいると考えられる。コロナウィルス感染症の感染拡大に伴い、学会やワークショップなどの多くが中止となり、成果発表の場が限定されてはいるが、そのような状況下でも一定の成果が出ている点は、次年度以降のプロジェクトの進捗を大いに後押しするものであると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は主に以下の3点を中心に研究を進めて行く予定である。第一に、日本語の分裂文の特性について研究を行う予定である。分裂文において焦点移動する要素が主格であると、対格の場合に比べて容認可能性が落ちる(例:ジョンが食べたのはりんごをだ。/*りんごを食べたのはジョンがだ。)というデータを、「対格は動詞句(vP)内で、主格はそれより高い統語位置で照合される」という違いから説明する理論を構築中である。格照合の位置が移動の可否に影響を与えるという観察は、vPを含む「フェイズ」ごとに格照合などの派生が進むというChomsky (2008, a.o.) の「フェイズ理論」に対して興味深い示唆を持つと考えられる(中尾、小畑)。第二に、2020年度は公共表示という限られたデータを考察の対象としたが,2021年度は多様なデータを収集し,より包括的に行為促進型表現における語用論的ストラテジーのあり方を明らかにしていきたい。特に、他者への配慮を示すポライトネスの視点からの考察を深めていく予定である(谷)。第三に、統語構造とその意味・語用とのつながりを解明すべく、談話マーカー(discourse marker)の統語的・意味語用的研究を進める予定である(谷、小畑)。
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Causes of Carryover |
2020年度は、コロナウィルス感染症の感染拡大により、参加を考えていた学会が開催中止やオンライン開催等になり、主に旅費として考えていた予算を使用する機会がほぼ無くなってしまったのが、残額が大きくなった主な原因である。2021年度も学会の開催状況はあまり変化がないものと考えられる為、2022年度以降の学会参加の為に残しておくか、オンライン学会での発表に必要な機材の整備や文献代、又は英文校正費として支出するかのいずれかの方法で使用予定である。
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Research Products
(5 results)