2021 Fiscal Year Research-status Report
英語の脱規範性・変則性を生み出す力を解明するためのフレイジオロジー的実証研究
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20K00673
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
住吉 誠 関西学院大学, 経済学部, 教授 (10441106)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 脱規範性 / 関係詞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は英語の脱規範性・変則性を示す事例として関係詞の選択について集中的にデータ収集と分析を行った。以下データの収集と考察に分けて、実績を報告する。 本年度はペーパーバック15冊から手作業で関連データを収集した。その結果、英語の変則性を示す関係詞の例として、day where.../year where... のような例を必要十分な数収集できた。従来、名詞の case/situation などにつづく関係詞に where/when の揺れが見られることは一部の研究者から指摘されていたが、本年度のデータ収集により、このような揺れは day/year といった唯一限定的に「時」の関係詞を選択すると考えられていた名詞にまで及んでいることを明らかにできた。このような関係詞の規則を逸脱する例は、これまでの考察の網の目から漏れていたものであり、本研究課題が目指す「脱規範性・非変則性を生む力」の解明に重要な意味を持つ。 収集できた多くの例を仔細に検討すると、このような脱規範を促す力として、day/yearといった名詞が表す意味をどうとらえるかということが大きく影響していると指摘できる。それらが表す意味を temporal なものとしてではなく、物事が起きる場としてとらえているのである。規範的な語法書では、day/year where... のような連鎖を「誤用」として指摘するにとどまっているが、このような多数の脱規範例は、day/yearといった名詞を spatial なものとしてとらえることも一つの選択肢として排除されないことを示している。この脱規範的・変則的現象では、temporal な意味を持ったものが spatial な意味と解釈し直されており、意味のとらえ方の柔軟性を示すものとして興味深い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は2年目を迎え、おおむね順調に推移していると考えることができる。本研究課題の進捗状況を文献・データ収集、事象分析、成果発表の3点から述べる。 文献・データ収集:研究計画では、いずれの年度においても文献・データの収集を集中的に行うとしていたが、予定通りに進捗している。文献については、多少時代が古いものも含め比較的最近の書籍や論文を多数収集し、知見の吸収に努めている。データについては期待していた以上に脱規範性・変則性を示す多様で質の高い例を収集できた。特に2年目の関係詞のデータを収集する過程で、別の脱規範性・変則性を示す事象のデータも手元に集まっており、そのような多様な例がさらなる気づきや考察を促している。データ収集から考察へつながるよい研究サイクルが生まれている。 事象分析:1年目の形容詞パタンの考察、2年目の関係詞の選択の考察と、研究計画で予定していた形で脱規範性・変則性を示す事象を考察・分析した。実例を重視しながら、フレイジオロジーの観点から脱規範性・変則性を示すデータを分析していくことで、従来の言語研究とは異なる視点で英語の実態を明らかにした。特に、これまで「不可」とされていたような英語の表現が、意味的理由から特異な連鎖を作ることを指摘できたことは大きな成果であった。このような考察・分析の過程で行った良質なデータ収集は、考察すべき別の事象を発掘することの一助となっている。新たな事象も分析の対象にしながら、今後も脱規範性・変則性を示す事象の分析を進めていくことに支障はないと考えている。 成果発表:本研究課題の成果の一部は研究初年度に論文として公刊できた。また、2年目の研究成果については多少時期がずれたが、予定から大幅に遅れているということではなく、公刊に向けて準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の実施3年目となる22年度は、研究遂行のためのデータの土台となる実例の収集をさらに強化し、「実例収集からコーパス検索へ」という質から量への転換を進める。その後、コーパスの数値データや類似の例をもとに考察を深め、量から質への再転換を行っていく。そのため、研究計画で述べたように、研究課題3年目もペーパーバックからの実例の収集、コーパスの利用といったデータの収集は精力的に進めていきたい。 4年間の研究期間のうち、前半の2年間で、意味をどうとらえるかという要因が、脱規範性・変則性を生む力として関わっていることを明らかにした。意味論的な考察を深めることは非常に重要であるため、フレイジオロジーの中心的な考え方である「意味の非合成性」を含め、意味研究の知見を継続して吸収していく予定である。一方で、単なる語義ではなく、語や表現が使用される文脈が意味のとらえ方に大きく影響を与えている可能性もあることから、手元の実例やコーパスからの例を考察する際に、より広い視野で文脈の検討を綿密に行っていく予定である。 今後は、冗長や省略を含んだ脱規範的・変則的表現を中心に考察する予定であるが、英語の脱規範性・変則性を理解するためには、英語の標準性がどのように確立されるかを把握しておく必要がある。研究年度3年目となる22年度においては、関連する文献渉猟を進め、規範・直観といった従来の言語学の標準性を確立してきた判断基準を改めて見直す。その土台の上に立って、脱規範性・変則性を示す現象を掘り下げて考察することで、脱規範性・変則性を生じさせる力の解明の一助としたい。 コロナ禍の影響で成果の公刊の予定が幾分後ろ倒しになってはいるが、本研究課題最終年度となる23年度末を目標に、脱規範性・変則性を示す現象を多数扱った本研究課題の成果のまとめを公刊する準備を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響が長引く中で、海外の学会へ参加するための渡航費が不要となり、当初予定していた旅費を関連する文献の購入に充てた。そのため余剰が生じたが、この余剰分は次年度の助成金と合わせて、本研究課題遂行に必要な渡航費や書籍の購入に充てる予定である。学会の開催状況によって、旅費を必要としない場合も想定されるため、その場合は、関連書籍や事務機器の購入に充てる予定である。
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