2021 Fiscal Year Research-status Report
A Cognitive Linguistic Analysis of Indirect Directive Constructions in English and their Discourse Structures
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20K00675
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高橋 英光 北海道大学, 文学研究院, 名誉教授 (10142663)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 間接行為指示文 / パートナー構文 / 談話構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該研究者は、2013~2019年度に英語の15タイプの間接行為指示文の包括的な分析を行い、間接行為指示文と命令文にも間接行為指示文同士にも動詞と項構造に共通点と相違点があることが明らかになった。続けて2020年度より談話構造の分析に移行し、(i)英語の間接行為指示文15タイプ各々が談話の中でどの行為指示文と共起するのか、(ii)個々の間接行為指示文が談話文脈のどの位置に表れどのような機能を担うのか、を説明し、(iii)(i)と(ii)の分析結果を受けて英語の間接行為指示文の談話構造を認知言語学的・社会語用論的に特徴づける研究プロジェクトを開始した。初年度には、目的(i)をほぼ完了し、15タイプの間接行為指示文各々がパートナーを組む行為指示文を特定した。この結果、英語の間接行為指示文のパートナーにもっともなりやすいのは命令文であり、2番目にパートナー構文になるのは同一か同系列の構文(例えば、Can you構文ならCan you構文)であることが判明した。 以上の成果を踏まえて、2021年度には目的(i)の分析を改良しつつ、目的(ii)と(iii)の分析を進めた。主な研究実績は以下の三点に要約される。第一に、Can you系の構文とWill you系の構文がパートナーを組む談話例は稀であリ、依頼と提案・助言の構文が共起する談話も非常に少ないことが判明した。第二に、行為指示文の中には談話内の生起位置が固定的なものもあるが、命題内容(あるいは語彙)の違いで談話位置・機能が変異することが判明した。この分析結果は、語彙を考慮せずに行為指示文の談話的特徴づける過去の研究の限界を示唆する点で重要である。第三に、行為指示談話の一般原理「行為に伴うコストが高く聞き手の従う義務が低いほど、さらに/または会話者同士の社会的隔たりが大きいほど談話サイズが大きく構造が複雑になる」を提案するに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020~2021年度には、(i) 互いにパートナー構文になりえるペアとなれないペアを、依頼型と提案・助言型の違いを踏まえて分析し、(ii) 間接行為指示文の談話内の位置・機能と語彙(連鎖)との関係を分析し、(iii)「話し手と聞き手の社会関係」「行為のコストと義務」「潜在的障害および利益」など認知言語学的・社会語用論的要因が行為指示の談話構造に及ぼす影響を分析する、という研究計画を立てた。 (i)については、命令文は依頼型とも提案・助言型の行為指示文ともパートナーを組むことが判明したが、Why don't you構文はCan youなどの依頼構文とパートナーを組む談話例は非常に少なく、Would you mind構文は、同系列のWould youと共起する例が一件あるのみで命令文と共起する例が見つからないことがわかった。(ii)についてはI want you toとWhy don't you構文は命令文・命令節を従えて行為指示談話の導入機能を担う談話例が観察され、do me a favorは命令文とwill youを含む計6タイプの行為指示文で談話の導入に用いられるが、excuse meは主に命令文で依頼談話の導入に用いられ、他の行為指示文は使用頻度が低いことが判明した。(iii)については、依頼は主に話者の利益のため提案・助言は主に聞き手の利益のための行為だが、中には聞き手の利益を含む依頼構文や話し手の利益を含む提案・助言構文も観察されるなど分析が大いに深まった。さらに行為指示談話のサイズの一般原理を提案できたのは想定外の重要な成果である。以上の研究成果の一部は「(仮題)英語の行為指示文と談話構造ー行為指示文同士の共起関係を探る」として(『認知言語学論』第17号)への掲載が決まっている。 以上から当該研究は「当初の計画以上に進展している」と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度も、(i)互いにパートナー構文になりえる行為指示文となれないペアの分析を進め、(ii) 間接行為指示文の談話内の位置・機能と語彙(連鎖)との対応関係の分析と、(iii)「話し手と聞き手の社会関係」「行為のコストと義務」「潜在的障害および利益」などの認知言語学的・社会語用論的要因と行為指示談話構造の関係の分析の精度を上げていく。 2020~2021年度の調査では、ある種の間接行為指示文は談話内の位置と機能がある程度固定(例えば談話の導入部か中心部か結論部かなど)しているが、間接行為指示文の多くについてその談話内の位置・機能は語彙連鎖(あるいは命題内容)により変異することが判明したため、この方向からの調査・分析を進める。また間接行為指示文にはWhy don't youとWhy not、Can youとCan't youなどの「姉妹構文」がある。従来の研究にはこれら姉妹構文を談話構造の観点から特徴したものが非常に少ないため、当該年度には量的・質的データに基づいてこれら姉妹構文の談話構造の共通点と相違点を明らかにしていく。 また、依頼は主に話者に利益をもたらすための、提案・助言は主に聞き手に利益をもたらすための、言語行為とされるが、2021年度の調査では、聞き手の利益にもつながる依頼文や話し手の利益につながる提案・助言文の談話例が観察された。この現象については2022年度でも観察・分析を続けそのからくりを説明することを目指す。2021年度に提案した仮説「行為に伴うコストが高く聞き手が従う義務低いほど、さらに会話者間の社会的距離が大きいほど、行為指示談話のサイズが大きく構造が複雑になる」については、その妥当性をより多くのデータに照らし合わせて検証し、必要に応じて修正を施す。 以上の調査・分析を踏まえて英語の間接行為指示文の談話構造の認知言語学研究を完了へと導いて行きたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、出席を予定していた国内・海外学会が中止やオンラインになったために次年度の使用となった。次年度の学会・研究会出張費および物品費に使用する。
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