2023 Fiscal Year Research-status Report
A sociophonetic study of accents of English considering their local history of English
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20K00684
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
三浦 弘 専修大学, 文学部, 教授 (00239188)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 音声・音韻 / 英語の多様性 / 社会音声学 / 発音変種 / フォルマント周波数 / 母音推移 / 歴史音韻論 / スコットランド標準英語 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度の9月には,英国スコットランドのインヴァネスにて,標準スコットランド英語 (Standard Scottish English, SSE) の音声が収録できた。インヴァネスは,スコットランド高地地方に位置していて,この地域では,18世紀までスコットランド・ゲール語が使われていた。19世紀以降の学校教育で英語が使われるようになると,スコッツ語(スコットランド低地地方の言語でノーサンブリア王国の古英語から独自に発達した言語)の訛りの影響を受けた英語がSSEとして広まることになった。スコットランド低地地方では,住民は状況に応じて,現代のスコッツ語とSSEを使い分けているが,スコットランド高地地方では,「ゲールタハト」(スコットランド・ゲール語使用地域)及びヘブリディーズ諸島以外の地域では,SSEだけが用いられている。インヴァネスではSSEのデータとしては良いものが得られた。 また,「二重母音のわたりと音素表記」についての論考を学会誌に発表した。狭母音化二重母音,FLEECE母音,及び GOOSE母音の音素表記は,国際的には統一見解がない。二重母音のわたりを示すためにその第2要素に母音記号を用いるか,子音記号を用いるかで見解が二分している。また,FLEECE母音と GOOSE母音の音素を単一母音とみなすか,二重母音とみなすかについても意見が分かれている。論考では,音声学理論に基づいて,代表的な研究の意義と変遷を考察し,現在の英語教育で用いられている音素表記の継続が望ましいと判断した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究期間初めの2年間はコロナウィルス感染症の流行のために海外渡航による現地調査で音声データが入手できなかったが,既存の音声データを利用して歴史音韻論に関連した研究を続けた。その後の2年間は現地調査によって,音声収録ができて,研究課題としている英語の地域的変遷史を融合させた社会音声学の研究がはかどった。 令和5年度には,英国スコットランドのインヴァネスにて,SSEの音声が収録できた。SSEは標準的な英語の文法をスコッツ語で発音したようなものである。 スコッツ語は,古英語時代の7世紀から10世紀に,ハンバー川以北,エジンバラ以南の地域にあった,ノーサンブリア王国の古英語が独自に発達した言語である。イギリスの標準英語となった,イングランド南東部の英語は,マーシア王国の古英語から発達したもので,イングランドのノルマン王朝時代にはフランス語の影響を受けているので,16世紀までは全く別の言語であった。1603年の同君連合でイングランドとスコットランドの国王が同一人となり(ジェームズ1世),両国は1707年にイギリス(グレートブリテン)として合併した。その結果,スコッツ語は英語の一方言のように変化した。 スコットランド低地地方の現代スコッツ語の話者の場合は,日常生活の中で状況に応じて,スコッツ語とSSEを使い分けている。しかし,インヴァネスの録音協力者の場合,SSEの単一言語話者であるので,SSEのインヴァネス方言の特徴がよくわかった。 令和5年9月に収録した音声の音響的分析が順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間を延長していただいた令和6年度には,当初の調査予定であった,ニュージーランド英語の調査を行う予定である。近年のニュージーランドの若者世代の英語発音が急速に変化している状況を分析すれば,イギリスにおける言語接触とは別の要因による言語変容,つまり,英語の音韻変化に関する傾向(規則)が見出せると思っている。 また,令和5年度にインヴァネスで収録した音声の分析が進んだので,令和6年度中に学会にて口頭発表をして,さらにその論文化を計画している。インヴァネスのSSE話者の場合,スコットランド低地地方のスコッツ語話者に比べて,語頭のL音の軟口蓋化が非常に強い。L音が軟口蓋化して,暗く籠った音色となることは,スコッツ語とSSEに共通する特徴であることはよく知られているが,インヴァネスにはその程度が極端な話者が見られた。 母音に関しても,スコッツ語とSSEには,「スコットランド母音長規則」と呼ばれる傾向がある。母音を長めに発音するか,短めに発音するかは後続の音環境によって変わる。語末,有声摩擦音, / r / 及び形態素(三単現や過去を示す接尾辞)の境界 ( #z, #d ) の前では,母音が長めに発音される。他の環境では短めになる,というものである。つまり,スコッツ語とSSEでは,音素としての母音の長短はあまり指摘されていない。しかし,イギリスの標準英語では二重母音として発音されるが,スコッツ語やSSEでは単一母音となる,FACE母音やGOAT母音の場合,スコットランド母音長規則に従えば,短めに発音されるはずの環境でも,長めに発音されていた。その理由は,これらの母音が,音素として長いためであると思われる。二重母音とも比較して,さらに詳しく分析する予定である。
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Causes of Carryover |
本研究課題経費の交付申請は主に海外調査のための旅費と人件費・謝金であるが,新型コロナウィルス感染症の流行のために,初年度からの2年間(令和2年度と令和3年度)は海外渡航ができなかった。令和5年度にスコットランド高地地方とニュージーランド北島(オークランド及びハミルトン)の2カ所で音声収録をしようとしたが,入学試験業務などがあって,3月には渡航できなかった。しかし,おかげさまで研究機関の延長をお認めいただけたので,令和6年度の夏に現地調査を行うことにした。次年度使用に繰り越した金額では経費がすべて賄えないかもしれないが,実施の予定で準備を進めている。
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