2021 Fiscal Year Research-status Report
『聖グースラーク伝』ラテン語・古英語のテキスト校訂:文体の比較研究に向けて
Project/Area Number |
20K00687
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
石黒 太郎 明治大学, 商学部, 専任教授 (60296548)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ラテン語 / 古英語 / 聖人伝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の作業は、(1)現存するラテン語原典のテキスト校訂、(2)現存する古英語散文訳のテキスト校訂、(3)ラテン語原典と古英語散文訳の語学的な比較研究にまとめることができる。 2021年度も2020年度と同様、感染症対策による本務校の業務増加、ならびに海外への渡航制限などにより、まったく予定通りに進めることができず、(1)と(2)の途中までしか進めることができなかった。 コロナ禍によって海外渡航が容易にできない状況は続くため、『聖グースラーク伝』古英語散文訳とラテン語原典の現代的な校訂テキストを作成し、ラテン語からの翻訳によって生じた古英語散文訳の文体に見られるラテン語の影響を明らかにするという当初の目的を達成できるよう、研究の対象、方法を変更した。具体的に2021年度は、(1)の対象とする写本を底本のC2写本と、それよりも前に書写されたC1写本に絞り、(3)について、できる範囲での考察を進めることにした。 (1)については校訂のもととなる、C2写本の基本的な転写を終え、その比較対象となるC1写本の転写を途中まで進めることができた。このC1写本は、C2写本よりも古い一方で、伝承の系統はC2写本と異なり、A写本と同じ系統に属すものであると考えられる。テキストの大きな異同を考察するうえで、とりわけ重要な写本である。 (3)にかかわる実績として、2本の論考をまとめることができた。1本はC2写本のラテン語の構文を古英語に翻訳した散文訳2作品の、一方は虚辞の否定構文を用い、他方はその構文を用いないで翻訳しているように見られる箇所を論じたものである。もう1本は、「越境」をテーマとした論考で、『聖グースラーク伝』のラテン語の文体全般について論じる。いずれも2022年度中に刊行予定の海外と国内の論文集に収録される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、コロナ禍により2020年度にほとんど進めることができずなかった(1)のテキスト校訂のうち、底本となるC2写本の校訂を主に行い、年度内の完成を目指し、それと並行して(2)の校訂を実施、(2)は2022年度の夏頃までの完成を目指していた。また写本の詳細を確認するために秋学期中に英国への研究出張を行う予定であった。だが、2021年度もコロナ禍がつづき、予定とはほど遠い進捗状況となっている。 研究の対象、方法の変更を検討した結果、調査の対象をオンラインで確認できる範囲を中心にして、必ずしも現地調査ができずともある一定の成果が出せるように、底本となるC2写本の校訂とならんで、C1写本との比較に力を入れるようにした。また本作品の文体を、中世初期の聖人伝の伝統の中に位置づけるような研究を、(3)の発展的課題と考えて取り組むようにした。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍の研究遂行に及ぼす影響が今後も続くことを考慮し、海外渡航の機会が大幅に減っても当初の目的を達成できるよう、今後も研究の対象、方法を変更する必要が出てくるものと考えている。 現時点では、調査の対象をオンラインで確認できる範囲を中心にして、必ずしも現地調査ができずともある一定の成果が出せるように、底本となるC2写本の校訂とならんで、C1写本の校訂を進める。関連作品の校訂テキストとの比較研究も視野に入れている。上述のように、本作品の文体を、中世初期の聖人伝の伝統の中に位置づける研究も進めていきたい。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によって、2020年度、2021年度に予定していた英国への研究出張を実施できず、その予算をまったく使うことがなかった。 海外への研究出張ができるようになれば、そのために次年度使用額を使いたいと考えているが、コロナ禍の完全な終息が見通せず、渡航制限や本務校の業務の都合で海外への研究出張の実施が困難な状況が続くようであれば、またさらなる研究計画の変更をせざるを得ないものと考えている。
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