2022 Fiscal Year Research-status Report
日露(イン)ポライトネスを切り口とした異文化理解教育のための教材および指導法開発
Project/Area Number |
20K00700
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松村 瑞子 九州大学, 言語文化研究院, 特任研究者 (80156463)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
東出 朋 長崎国際大学, 人間社会学部, 講師 (50837705)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ポライトネス / インポライトネス / ディスカーシブアップローチ / 日露対照研究 / 談話分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、日本人とロシア人の相互理解に極めて有効と考えられる、日本語・ロシア語の(イン)ポライトネス(丁寧さ(失礼さ))の対照研究を行うものである。まず日本人にとって無礼・丁寧すぎる・理解しがたいと感じられるロシア語(イン)ポライトネスを含む談話例、およびロシア人にとって同様に感じられる日本語(イン)ポライトネスを含む談話例を収集して分析した(令和2年度・3年度)。次に、令和4年度には、それを基に日本人・ロシア人に対する認識調査を行い、さらに、この調査結果を基に、日露(イン)ポライトネスの類似点・相違点を抽出し、その認識の類似・相違に繋がる社会文化的要因を探っていく予定であったが、周知の事情で、令和4年2月以降ロシアでの調査研究が中断された。そのため、令和4年度は日本人に対して行ったアンケート結果をまとめ、(イン)ポライトネスについての判断、世代差、ジェンダー差の観点から分析し、その判断に至った理由の記述についても分析を行った。さらに途中まで行ったロシア人に対するアンケート結果についても出来る限り分析した。 さらに、日本人に対する認識調査の分析を完成させ、日露対照研究、また(イン)ポライトネスと関わる日本語およびロシア語の特徴についての研究を以下の論文および研究ノートとして出版し、また学会発表も行った。 令和4年度の研究成果には、論文出版では井上幸義・松村瑞子.「現代ロシア語の『褒め言葉』『お世辞』に関する意味解釈」、東出朋・松村瑞子「日本語話者とロシア語話者のポライトネスの認識の相違に関する小考―依頼表現に対する適切性判断とその自由記述からの検討―」、井上幸義・松村瑞子.「ロシア語における「敬称としてのвы」と「親称としてのты」の使い分けについて」等、学会発表では東出朋・王琪「 「こと(だ)と思う」におけるコピュラの有無に関する分析―レジスターに着目して―」等がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、日本人とロシア人の相互理解に極めて有効と考えられる、日本語・ロシア語の(イン)ポライトネス(丁寧さ(失礼さ))の対照研究を行うものである。まず日本人にとって無礼・丁寧すぎる・理解しがたいと感じられるロシア語(イン)ポライトネスを含む談話例、およびロシア人にとって無礼・丁寧すぎる・理解しがたいと感じられる日本語(イン)ポライトネスを含む談話例を収集して分析した(令和2年度・3年度)。次に、令和4年度には、それを基に日本人・ロシア人に対する認識調査を行い、さらに、これらの調査結果を基に、日露(イン)ポライトネスの類似点・相違点を抽出し、その認識の類似・相違に繋がる社会文化的要因を探る予定であった。 しかし、周知の事情で、ロシア人に対する認識調査を行っている途中で令和4年2月以降ロシアでの調査研究が中断された。そこで、令和4年度は、できることから行っていった。まず日本人に対する認識調査結果をまとめその分析を行い、令和4年2月までに行うことのできたロシア人に対する認識調査の結果をまとめた。次に、(イン)ポライトネスと関わる日本語およびロシア語の特徴について、学会発表を行い、論文および研究ノートを成果として出版した。 令和4年度内に状況が改善すればロシアとの共同研究を再開する予定であったが、それは叶わなかったため、このプロジェクトの研究期間を1年間延長してもらい、令和5年度内に計画を出来る限り進めていく予定である。令和5年度には、可能であればロシアでの調査分析を再開して、それが叶わない場合は、現在既に行っているロシア人に対する認識調査の結果に加えて、日本在住のロシア人に対する調査分析を行って、日露(イン)ポライトネスの類似点・相違点を抽出し、その認識の類似・相違に繋がる社会文化的要因を探り、教材および指導法を開発する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、日露の相互理解を目指したポライトネス研究であるため、日露のポライトネスと社会文化との関わりをより具体的に提示することのできる研究方法をとった。Brown and Levinson (1978) はポライトネス理論として最も強い影響力をもつ研究であるが、Haugh (2004) が指摘するように、様々の文化のポライトネスを同一基準で定義することは難しい。Helen Spencer-Oatey (2000) は「異なった文化はどういうコンテクストでどういう行動が適切かどうかについて異なった慣習をもっている」と述べる。また、ポライトネスへの言説的アプローチDiscursive Approaches to Politeness (2011) では、個人と社会との関係、話し手の言語産出のみならず聞き手の言語評価、談話中での会話参加者間の相互作用を考慮にいれた(イン)ポライトネス研究を提案した。本研究もこの観点から(イン)ポライトネスを分析した。 しかし、本研究での調査を行っていく中で、言説的アプローチを用いてより深い異文化理解を進めるには、(イン)ポライトネスに対するアンケートや認識結果を基にテキストを作成するだけでは十分ではないということも分かった。学習者自身が自ら推論しながら理解を深めていくことができるようなテキストおよび指導法を考えていくことが不可欠であり、それこそが言説的アプローチのもつ強みであると考えるようになった。 どのような方法をとってそれを行うべきかを、現在模索中であるが、因(2004)(2005)(2007)(2008)等で行われたマンガを用いた異文化理解教育の方法、Khadijah and Matsumura (2020)などに見られる映画を用いた語用論技能教育の方法などを基盤としながら、より深い異文化理解教育の方法を探っていくつもりである。
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Causes of Carryover |
令和4年度は日本からロシアに赴き共同研究を行い、さらにロシアから共同研究者を招聘して共同研究を進める計画であったが、周知の事情で、令和4年2月以降、日本人・ロシア人に対する認識調査を行っている途中でロシアでの調査研究が中断された。そのため、使用する予定であった旅費については、全て使用不可となった。さらに、共同研究の成果としてテキストを作成して出版する予定であったが、ロシアでの調査が中断されたため、テキストを完成させることができず、印刷費についても使用できなかった。そのため令和4年度に使用したのは、アンケート調査をお願いした被験者への人件費および間接経費で購入した消耗品のみとなった。 そこで、このプロジェクトの研究期間を1年間延長してもらい、令和5年度に、出来る限りロシアでの調査分析を再開したいと計画している。ただし、それが出来ない場合にも、日本在住のロシア人に対して調査分析を行って、日露(イン)ポライトネスの類似点・相違点を抽出し、その認識の類似・相違に繋がる社会文化的要因を探り、その結果に基づいて、教材および指導法を開発して出版する予定である。 また、成果発表については、出来る限りロシアに赴いて発表したいと願っているが、それが不可能な場合には、日本国内およびロシア以外の国での国際学会において学会発表を行い、学術誌に論文を投稿する予定である。
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Research Products
(5 results)