2020 Fiscal Year Research-status Report
Explication of cognitive process during simultaneous interpreting: Integrated description of global and local processing
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20K00795
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
石塚 浩之 広島修道大学, 人文学部, 教授 (40737003)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
船山 仲他 神戸市外国語大学, 外国学研究所, 名誉教授 (10199416)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 同時通訳 / 認知処理 / 発話理解 / 概念構築 / 相関モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
言語コードの置換作業を超えた概念レベルでの認知処理を同時通訳の核心と見なし、時間的側面を含め統一的に記述することが本研究の主題である。本年度の主要な研究実績は、順送り訳の視点からの基礎理論の妥当性評価およびデータの質的分析に基づく仮説提示の2点に集約される。 船山は、「言語コミュニケーションの概念-意味相関モデル」(船山2020)(以下、相関モデル)の枠組から順送り訳の可能性とそこで注目される“概念”の働きを論じ、同時通訳で表面化する順送り訳の有効性および妥当性を検討した。これにより、“意味”と“概念”を区別しつつ両者を同時に視野に入れるという相関モデルの理論的アプローチから、順送り訳の要領、特にその中での“概念”の働きを整理できることを示した。これにより、順送り訳の研究は通訳コミュニケーションの本質を探る上で重要な示唆を含むこと、さらに順送り訳を支える能力を考えることは人間の言語理解についての本質的洞察につながることを示した。 石塚は、同時通訳データの質的観察により、原発話にない指示表現の訳出に注目し、これを手がかりに順送り処理の背後にある概念操作の一般性について考察した。これにより、順送り訳を可能とする認知処理は訳出困難となる統語構造に出会った際に発動する特殊な処理ではなく、同時通訳作業中は常時働いており、これを持続することができれば、二言語間の統語的差異を乗り越え、順送りに処理することができるという仮説を示した。 近年、通訳翻訳の認知処理研究の多くは、視線計測、打鍵記録、脳機能画像法などの測定装置を使用し、実験参加者の反応を定量的に観察するものであり、発話理解の質的側面を対象とするものはない。本研究では、同時通訳の訳出を通訳者の認知状態の表出と見なし、測定機器による分析のみからは到達することのできない心的表示の内実を記述している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年は、本研究課題の推進に向けた二つの前提条件が予定通り準備された。4月に本研究の主要データとなる同時通訳データベース(JNPCコーパス)(基盤研究(B)課題番号16H02915)が公開された。また、9月には本研究の基礎理論となる「言語コミュニケーションの概念-意味相関モデル」が公刊された。一方、新型コロナ感染症の影響で、当初の研究計画を大幅に変更せざるを得なくなった。当初、2020年9月より研究代表者の石塚がイギリスでの在外研究を開始する予定であったが、2022年9月からの開始に変更した。また、日本通訳翻訳学会の年次大会は中止となったが、これに代わる場として、同学会の関東支部例会や「順送りの訳」研究プロジェクトの研究会を活用し、研究活動の停滞を防いだ。 相関モデルは同時通訳における “意味”と“概念” の働きを説明しうるモデルであるが、本来、同時通訳に特化したモデルではなく、言語コミュニケーション一般のモデルである。本年度は、これを同時通訳における認知処理をより具体的に説明するため、特に順送りの訳という観点から理論的妥当性を検証した。 データとしては、当初より同時通訳データベース(JNPCコーパス)を使う予定ではあったが、これは本研究課題に特化したものではなく、どちらかと言えば量的研究を想定した汎用データベースであるため、本研究課題での分析に使用するためには、さらにデータの整理と加工の工程を経る必要がある。そのため、本年度は研究協力者を雇い入れ、記者会見記録5本(約6時間分)のデータ加工を行った。 本年度の分析は、理論的には相関モデルの一部を踏まえたに過ぎない。今後の課題として、相関モデルのコミュニケーション・モデルとしての特性を活用した記述が挙げられ、これをより一般的観点から同時通訳における記述漸進的全体的処理と逐次的部分的処理の記述への糸口とする。
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Strategy for Future Research Activity |
石塚の在外研究開始を2022年9月に延期したため、当初の研究計画を大幅に修正する必要がある。本研究課題は、当初3年間で終了することを予定していたが、現在の計画では4年目に突入することは避けられない。また、当初は在外研究からの帰国後を研究成果の発表・執筆に充てる予定であったが、これはできないため、在外研究期間に発表・執筆を進める必要がある。そのため、本研究課題の主張の核となる研究成果を確保するべく、2021年度は理論的枠組みの整備を行いつつ、分析例の蓄積を進める。データの質の検証は、随時行うことになるが、その結果、追加データが必要であれば対応する。 2021年度の理論的目標としては、コミュニケーション・モデルとしての相関モデルの特徴を全面的に引き出すことを意識し、同時通訳における認知処理をより一般的な視点から記述するための準備を進める。 一方、これまでの分析の蓄積から、概念操作の内実としては「概念的まとめ直し」と言われる作業の多面性・一般性が本研究課題の核心にあることが示されつつある。今後の分析では、この概念的まとめ直しの実態を探ることが目標となる。具体的には、これまでの分析で指摘してきた通り、以下の三つの面に注目する。(1) 分割の実態:同時通訳の逐次処理はどのような単位で実現されているのか。(2) 保持情報の実態:どのような先行情報がどのように保持されているのか。保持情報は原発話の言語形式とどのような関係にあるのか。ディスコースの展開において、この保持情報はどのように変容するのか。 (3) 情報組換えの実態:原発話から得られた情報は訳出にあたり、事態把握の変更などの操作が加えられるが、どのようなとらえ直しが行われているのか。 最終的には、同時通訳における多面的な概念操作を、漸進的・全体的処理と逐次的・部分的処理という統一的視点から記述することを見込んでいる。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響で、当初の研究計画を大幅に変更せざるを得なくなった。当初、2020年9月より研究代表者の石塚がイギリスでの在外研究を開始する予定であったが、これを2年間延期とした。在外研究開始が2022年9月からとなったため、本研究課題の研究期間を1年間延長し、在外研究期間中に消化予定であった予算を最終年度に消化する。 また、2020年度は日本通訳翻訳学会の年次大会は中止となったが、これに代わる場として、同学会の関東支部例会や「順送りの訳」研究プロジェクトの研究会を活用し、研究活動の停滞を防いだ。これらの研究会等はすべてオンラインで実施されたため、当初予定していた旅費等は、次年度以降に持ち越すこととした。
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Research Products
(6 results)