2021 Fiscal Year Research-status Report
Explication of cognitive process during simultaneous interpreting: Integrated description of global and local processing
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20K00795
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
石塚 浩之 広島修道大学, 人文学部, 教授 (40737003)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
船山 仲他 神戸市外国語大学, 外国学研究所, 名誉教授 (10199416)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 同時通訳 / 認知処理 / 発話理解 / 概念構築 / 相関モデル / 順送り訳 / 語順処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の成果は、語順処理という観点からの基礎理論の整備とデータに基づくモデル化の2点にまとめられる。本研究課題は、主に日本通訳学会の「順送りの訳」研究プロジェクトでの活動として進めてきた。この活動成果は、令和4(2022)年度科学研究費助成事業(科学研究費補助金)(研究成果公開促進費、課題番号22HP5056)として採択され、『英日通訳翻訳における語順処理 順送り訳の歴史・理論・実践』として、2022年度中にひつじ書房より出版される予定である。 本課題の同書における貢献は、第2章の「「相関モデル」から見た順送り訳」(船山)および第3章の「順送りのための概念操作」(石塚)である。 第2章では、英語から日本語への翻訳例を「言語コミュニケーションの概念-意味相関モデル」の視点から捉え、訳出順序の概念的側面を考察した。典型的に順送りとなる訳出を可能とする要素について「相関モデル」の視点から具体例を示すことによって、読者の概念的理解と翻訳作業を支える概念的操作がどう連繋するかをわかりやすく示す。本章では、訳出語順に関わる概念処理を具体例に基づいて明示化し、日本における英語教育の歴史に潜む訳し上げ志向の要因を明らかにする。 第3章では、順送り訳を支える概念レベルの処理を記述した。本研究では同時通訳における言語的特徴のひとつとして起点テクストに対応する要素のない指示表現の目標テクストへの追加に注目し、順送り訳の背後に働く概念操作は、統語的差異の克服が必要とされる局面だけではなく、常に実行されている恒常的処理である可能性を指摘した。本稿は2021年にMITIS Journal 2(3) に発表済み (pp.11-32) の論文を基にしており、コミュニケーションとしての通訳翻訳の観点から、翻訳単位の位置づけを再考し、概念から言語表現の産出過程における情報構造の位置づけを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
石塚は2020年9月よりロンドン大学SOASにて1年間の在外研究を予定していた。ヨーロッパは通訳翻訳研究の盛んな土地であり、多くの大学に通訳翻訳の専門のコースを設置している。SOASにも翻訳研究所があり、石塚はここに所属することとなっていた。この期間は、通常の大学業務は免除されるため、本研究を一挙に推し進める好機となるはずであったが、新型コロナウィルス感染症の世界的流行の影響で延期することとした。そのため、本研究課題の推進のために見込んでいたエフォート配分を確保できないことが明らかとなった。それに伴い、研究代表者である石塚の他の研究課題も含め、大幅に研究計画を見直した。また、成果発表の計画も変更したため、研究成果の出版等の予定はあるものの、年度内に発表まで至った成果は乏しいのが実情である。 2021年度は理論的枠組みの整備を行いつつ、分析例の蓄積を進めた。当初、本研究課題と並行し、本研究課題の成果を含む「順送りの訳」研究プロジェクトの成果をまとめる予定であったが、新型コロナウィルス感染症蔓延の影響で、後者が先行することとなった。そのため、「順送りの訳」研究プロジェクトの出版原稿の執筆や助成金の申請に予想外のエフォートを割かれ、本研究課題で予定しているその他の作業は後回しとなった。 しかし、データの質の検証は随時進め、必要に応じ、JNPCコーパスより追加データを確保し、本課題で分析可能な形に再加工した。また、「順送りの訳」研究プロジェクトの成果を先にまとめたことにより、英日通訳翻訳における語順処理という観点から、本研究課題の意義と位置づけを明確化することができた。さらに通訳教育関連の研究プロジェクトにも参加し、参加者との議論を重ねる中で、本研究課題の教育現場への応用可能性についても視野を得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、当初3年間で終了することを予定していたが、現在の計画では4年間としている。当初は在外研究からの帰国後を研究成果の発表・執筆に充てる予定であったが、これはできないため、在外研究期間に発表・執筆を進める。 本研究の主題は、言語コードの置換作業を超えた認知処理を同時通訳の核心と見なし、時間的側面を含め統一的に記述することである。同時通訳の時間的側面に関しては、順送り処理という観点は大きな手掛かりとなる。これは言語的側面においては起点言語と目標言語の間にある語順の違いをどうのりこえるかという問題と結びついているため、英語と日本語のように統語構造の大きく異なる言語間の同時通訳には、こうした認知処理の特徴が明確に表れる。 本研究課題の基礎理論に関しては、船山が心理学の分野で議論の対象になっている「二重過程理論」と「相関モデル」の関係についての考察を進めている。本課題の中心をなす実証的記述に関しては、質的分析に使用するデータの準備はほぼ完了したが、データの質の検証作業は随時進めている。今年度は、データの質的検証と分析を並行して進め、本研究課題の枠組みを整理し、課題を整理する。成果の一部は、通訳研究の成果としては2022年9月に日本通訳翻訳学会の第23回年次学会、言語学的成果としては2023年7月にInternational Pragmatics Associationの18th International Pragmatics Conferenceでの発表を目指し、準備を進める。 石塚の在外研究期間中は、当初より予定している本研究の課題を進めるほか、日英以外の組み合わせで通訳翻訳研究を進めている研究者との交流を進め、通訳翻訳研究全体における本研究課題の位置づけを確認し、本研究課題の残された問題を整理する。さらに応用研究へ向け他の研究者との連携を視野に入れる。
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Causes of Carryover |
2020年より始まった新型コロナ感染症の世界的流行の影響で、課題研究期間の初年度より計画を大幅に変更した。2020年9月より研究代表者の石塚がイギリスでの在外研究を開始する予定であったが、これを2年間延期とし、2022年9月からとしている。当初、在外研究期間中にデータの分析や考察を進め、帰国後、研究成果を論文にまとめる予定であったが、現行計画では、在外研究中に分析・考察と論文執筆を一気に進めるための準備を進めている。在外研究の開始が課題研究期間の3年目にあたるため、課題研究期間を4年に延長し、在外研究期間中に使用予定であった予算を最終年度に使用する。 また、2020年度、2021年度は、国内、国外の多くの学会や研究会がオンラインでの開催となったため、当初予定していた旅費等を2022年度、2023年度に持ち越す。また、現在、欧米および日本の金融政策の違いなどから急激な円安が進行している。そのため、当初予定していたロンドン滞在のための物件費もかなりの支出増が見込まれている。為替変動については未知の要因が大きいが、場合によっては予算使途のさらなる変更が必要となる可能性もある。
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