2022 Fiscal Year Research-status Report
Explication of cognitive process during simultaneous interpreting: Integrated description of global and local processing
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20K00795
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Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
石塚 浩之 広島修道大学, 人文学部, 教授 (40737003)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
船山 仲他 神戸市外国語大学, 外国学研究所, 名誉教授 (10199416)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 同時通訳 / 認知処理 / コーパス / 発話理解 / 談話処理 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年2月、『英日通訳翻訳における語順処理 順送り訳の歴史・理論・実践』を刊行した。ここに本研究課題の成果として、第2章の「「相関モデル」から見た順送り訳」(船山)および第3章の「順送りのための概念操作」(石塚)を収録した。 その後、3件の口頭発表を行った。今年度は、これまでに引き続き、同時通訳の訳出に表れた追加的指示詞に注目し、「言語コミュニケーションの概念-意味相関モデル」(船山, 2020、以下「相関モデル」)の立場から、通訳者の対人認知のあり方を探っている。これによりディスコース処理における全体的処理と局所的処理の具体化として、新たな要素を見出した。 日本通訳翻訳学会第23回年次大会(2022年9月)では、通訳データベース(JNPCコーパス)に含まれる同時通訳付記者会見(記録時間43分16秒)のうち、典型と思われる1例の詳細な分析を示した。この研究では、追加的指示詞のうちとくに直示用法に注目し、通訳者による情報保持の観点から、相関モデルにおける推論ルートの働きを指摘した。 次に日本通訳翻訳学会通訳コミュニケーション研究プロジェクト第1回研究会(2023年1月)では、同じ同時通訳記録の分析に量的手法を取り入れ、収録時間43分16秒の同時通訳記録における追加的指示詞の分布を分析した。今回の分析は、技術的側面としてメタ表示が積極的な役割を果たす例を示し、基盤的側面として言語的置換を超えた対人認知の働きを指摘した。 さらにロンドン大学SOASのCentre for Translation Studies主催のGlobal Seminar Series (2023年2月)での講演を行った。ここでは、特に基盤的側面からの分析に焦点を絞り、コミュニケーションの基盤をなす共同注意の観点を組み込むことにより、同時通訳における認知処理を対人認知の実態を含め記述した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本課題の進捗は、新型コロナウィルス感染症の影響で遅れていた。最大の要因は、当初、2020年より予定していた石塚の在外研究が延期となったことがある。2022年度、2年遅れで在外研究が実現したこともあり、本課題の進捗状況は大幅に改善した。 2022年9月より在外研究開始に合わせ、これまで本課題のために整備した同時通訳記録の分析を進めた。速やかな課題推進のため、日本通訳翻訳学会第23回年次大会(2022年9月)の発表では、1例のみの質的分析により、新たな分析の視点を示すことに成功した。 本研究課題では、一貫して、通訳データベース(JNPCコーパス)に収録されたELAN形式のデータを独自のフォーマットに再加工し、データとして使用している。これまでもその準備を進めてきたが、2022年9月から、本格的な分析を開始した際、使用データの整備に想定外の時間がかかることが明らかになった。この整備には2つの要因がある。一つ目の要因は、これまでに準備したデータに含まれたデータに、さらなるエラーチェックが必要であること、二つ目の要因は、国際的な研究成果の発信のため、日本語のグロスが必要であり、そのため、同時通訳記録の二言語へ移行データに、グロスのための第3層が必要であるためである。これは、本研究課題の推進において、想定外の追加作業であり、相当の作業工数が必要となるが、本課題の推進だけではなく、今後、同様の手法による新たな研究課題の推進のためにも解決しておくべき課題である。 現時点では完全な解決に至ったとは言えないが、本課題の遂行に当たって深刻な問題は解消した。今後はよりよい解決の方法を探りつつ課題を推進する。そのため、他分野の研究者に意見を求める他、本研究課題とは直接的に関連のない分野の文献を辺り、日本語データの提示方法を参考にする他、AI技術を活用したデータ処理の応用可能性も探りたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、同時通訳者のディスコース処理における漸進的・全体的処理と逐次的・局所的処理の記述をテーマとしている。これは同時通訳における時間的側面に重要なかかわりを持つ。そのため、分析の手がかりとして、これまでは同時通訳における順送り処理という側面に注目し、追加的指示詞の使用に本課題の着眼点が端的に表れることを確認した。これは、同時通訳における技術的側面を追加的指示詞という現象から記述する試みとして有効である。さらに、その後の研究により、同じく追加的指示詞という現象から、一見して技術的側面に見える現象を、認知処理を支える基盤的側面から分析することが可能になることが明らかになりつつある。特に相関モデルに示された推論ルートの実態を明らかにするにあたり、直示用法の指示詞に注目することにより、共同注意の観点からの分析を進めることができることが分かった。これまで、本研究課題は、同時通訳におけるディスコース処理の形式的な側面(処理の単位および処理の射程)の記述を目標としていたが、同じ研究手法から認知的処理の内容面(処理の主題・性質)に踏み込むことの可能性が広がりつつある。 現在、成果の一部は、2023年7月にInternational Pragmatics Associationの18th International Pragmatics Conferenceでの発表準備を進めており、これを基に国際ジャーナルへの論文投稿を予定している。今後の研究では、通訳者の対人認知に比重を移し、指示詞の使用以外の要素(待遇表現、受益表現など)にも注目し、相関モデルにおける推論ルートの役割をより詳細に分析する。この成果を、本研究課題のまとめとし、次の課題への移行を探る。
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Causes of Carryover |
2020年より始まった新型コロナ感染症の世界的流行の影響で、課題研究期間の初年度より計画を大幅に変更した。2020年9月より研究代表者の石塚がイギリスでの在外研究を開始する予定であったが、これを2年間延期とし、2022年9月からとなった。また、2020年度、2021年度は、国内、国外の多くの学会や研究会がオンラインでの開催となったため、当初予定していた旅費等を2022年度、2023年度に持ち越した。当初、在外研究期間中にデータの分析や考察を進め、帰国後、研究成果を論文にまとめる予定であったが、現行計画では、在外研究中に分析・考察と論文執筆を同時に進めている。在外研究の開始が課題研究期間の3年目にあたるため、課題研究期間を4年に延長し、在外研究期間中に執行予定であった予算を最終年度に執行する。
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