2020 Fiscal Year Research-status Report
慣用化表現における情報処理過程のモデル構築と外国語教育への応用
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20K00801
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
松野 和子 静岡大学, 大学教育センター, 准教授 (80615790)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 慣用化表現 / 言語情報処理過程 / 心的表象 / レキシカルフレーズ / formulaic language |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度では、慣用化表現に関する先行研究を収集した後、新型コロナウィルスに対する安全性を確保することを最優先とし、当初に予定されていた調査手法である反応時間測定実験を再考した。再考の結果、当該年度では、実験に代わり、質問紙による調査を実施することとした。 当該年度は、先行研究に基づき、慣用化表現の1つであるレキシカルフレーズに焦点をあてて、調査を行った。本調査の目的は、レキシカルフレーズの意味的分解について、理解と産出の双方から、複数の語が連結して記憶された脳内の情報へアクセスすると同時に、表現を構成する単語へのアクセスも行われるかを明らかにすることである。調査では、初級学習者と中級学習者を対象とし、学習者を習熟度別に二群に分けて分析することによって、レキシカルフレーズの習得過程を考察することも試みた。 調査の結果、語の連結パターンにアクセスする処理と並行して、分解処理も行っているレキシカルフレーズがあることが分かった。加えて、レキシカルフレーズによっては、理解と産出で処理方法が異なる表現が見いだされた。初級学習者と中級学習者を比較したところ、レキシカルフレーズの意味的分解に対する処理方法が異なっていることが明らかとなり、EFL環境でのレキシカルフレーズの習得過程として、初級学習者では1語1語の意味を意識するが、中級学習者になると1語1語の意味を意識しなくなると分析された。また、初級学習者では理解の際に比べて産出を行う際にレキシカルフレーズの意味的分解を行うが、中級学習者では産出の際にレキシカルフレーズの意味的分解を行わなくなることが観察された。これらは、習熟度の低い学習者における処理の非効率性や負荷につながり、外国語の産出を困難にする一要因であると考え得る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウィルスの影響により、当初に予定していた実験を開始することができなかった。実験に代わる調査方法として、調査参加者の安全を守り、参加してくれる協力者が安心できる方法を検討した結果、当該年度では、質問紙を用いた調査を実施することとした。そのため、実験の進捗がやや遅れているが、実験を開始できる状況となり次第、着手する計画である。当初は予定していなかったが、質問紙による調査を追加して実施することができたため、質問紙調査によるデータと反応時間測定によるデータを比較して、今後は分析を行うことができるため、研究の進捗はやや遅れているが、より多角的な視点に基づき、慣用化表現に対する言語情報処理過程を明らかにすることができるようになったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も、新型コロナウィルスの状況を注視しつつ、調査参加者の安全を守り、参加してくれる協力者が安心できることを最優先にして調査を進める。そのため、実験を行う場合にはどのような方法で実施するのが最善であるかを再考すると共に、実験に代わる調査方法についても熟考する。 2020年度と同様に、質問紙による調査を継続する場合、今後は、上級学習者や母語話者を対象に調査を行い、レキシカルフレーズがどのように習得されていくかを包括的に明らかにする予定である。習熟度が高いほど単語の意味が意識されなくなる可能性がある一方で、初級学習者では1語1語の意味が多くの表現で意識されるが、中級学習者では意識されなくなり、高度な処理能力を習得している上級学習者や母語話者では1語1語の意味を効果的に引き出して表現の深い理解や産出を行っている可能性もある。その場合、初級学習者と上級学習者ともに表面上は分解処理を行っているが、質が異なる可能性があるため、レキシカルフレーズを構成している単語の意味を意識していない要因や意識している要因を精査する計画である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスによる影響によって、当初に予定していた実験の実施ができなかったため、次年度使用額が生じた。(今後も、新型コロナウィルスの状況を注視しつつ、調査参加者の安全を守り、参加してくれる協力者が安心できることを最優先にして調査を進める。そのため、実験を行う場合にはどのような方法で実施するのが最善であるかを再考すると共に、実験に代わる調査方法についても熟考する予定である。) 次年度使用額については、実験が開始できる場合には、実験に係る費用として活用する予定である。実験の開始が困難である場合には、新たな調査方法によって研究を続けるため、その費用として使用する計画である。
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Research Products
(1 results)