2023 Fiscal Year Research-status Report
慣用化表現における情報処理過程のモデル構築と外国語教育への応用
Project/Area Number |
20K00801
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
松野 和子 静岡大学, 大学教育センター, 准教授 (80615790)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 慣用化表現 / 意味的分解 / multi-word units / lexical phrases / 言語発達過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本語を母語とする英語学習者を対象に慣用化表現に対する多元的な情報処理過程を明らかにすることである。2023年度では、質問紙によって得られた結果に関して、反応時間測定による調査結果と比較することを考慮しつつ分析する必要があることが見いだされたため、当該の観点から再調査が実施された。その結果、習熟度によって、慣用化表現の処理過程における意味的分解のあり方に違いがあることが明らかとなった。具体的には、(a) 中級の初期段階では、初級よりも、慣用化表現を構成する単語の意味を意識するようになる。一方で、中級の初期段階を過ぎて中級後期になっていくと、慣用化表現を構成する単語の意味を意識しないようになり、処理の負荷が軽減される。(b) 初級では、産出において複数の処理を並行して行うことが難しく、産出の際に慣用化表現を構成する単語の意味が意識されないが、中級の初期段階では、理解する際よりも産出する際に単語の意味を意識するようになる。しかしながら、発達が進み中級後期になると、理解の際に慣用化表現を構成する単語の意味を意識するようになる。(c) 上級に発達すると、産出と理解において同等程度に慣用化表現を構成する単語の意味を意識する。(d) 慣用化表現を表現別に分析すると、習熟度別や理解・産出の別によって、意味的分解のあり方が異なっている。(産出と理解において同等程度に慣用化表現を構成する単語の意味を意識している上級学習者でも、理解と産出では意味的分解のあり方が異なっている)ことが分かった。意味的分解の度合が過度に高い場合、処理の非効率化や負荷を引き起こすと考えられる。一方で、意味的分解の度合が過度に低い場合、理解や産出における柔軟さ・深さを阻害する可能性がある。慣用化表現の意味的分解は、習熟度が低い学習者が第二言語を使用する際の疲労感や困難さの要因である可能性が考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、新型コロナウィルスに対する感染拡大防止や実験参加者の安全・安心を最優先にし、当初に予定されていた調査手法である反応時間測定実験を延期した。その際、当初に予定されていた調査手法である反応時間測定に代わり、質問紙を用いて処理過程への主観的認識を調査することで研究を断念することがないよう工夫した。当初は予定していなかった質問紙調査を本研究の分析に加えることができ、質問紙に基づくデータと反応時間測定に基づくデータの両方に基づいて、本研究の分析をおこなうことができるようになったため、当初の予定に比べてさらに細密に慣用化表現の情報処理過程を考察することができるようになったと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き、反応時間測定の本実験を実施する計画である。本実験を終えた後、これまでに得られている質問紙による主観的認識のデータと反応時間測定によるデータを比較して、言語使用者によって認識される処理過程のセグメントは何か(言語使用者によって認識されない処理過程のセグメントは何か)という観点も組み込みつつ、日本語を母語とする英語学習者を対象に慣用化表現における情報処理過程を包括的に明らかにすることを試みる。また、表現の属性や学習者の習熟度を分類した考察をおこない、外国語教育に対する示唆を得ることを試みる。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルスへの対応として、当初に予定していた実験に代わる調査手法として質問紙による調査を実施した。その後、当該の質問紙による結果を反映させた実験計画を再考し、研究全体のスケジュールや実験計画が変更された。次年度使用額は、引き続き実施される反応時間測定の本実験の実施や実験によって得られたデータの分析に必要な予算として用いられる。また、得られたデータを考察する際に必要な資料や書籍の購入にも使用される予定である。
|