2020 Fiscal Year Research-status Report
早期英語教育における「トランス・ランゲージ」アプローチの導入
Project/Area Number |
20K00820
|
Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
植松 茂男 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (40288965)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | トランス・ランゲージング / コード・スイッチング / 英語による発表 / 母語の活用 / 大学生 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者の勤務先の大学生を対象に、5月の連休明けからZoomと広角度カメラ、集音マイクを利用し、米国の歴代名スピーチをYouTubeを利用して聞かせ、その後のアクティビティーの様子を逐次録画編集した。スピーチの日本語訳はPDFで事前に配布しておき、J.F.Kennedy, Dr. King, L. Johnsonなどのスピーチを深く理解する授業を行った。特に1960年代のスピーチは公民権運動、冷戦などの時代背景が21世紀生まれの学生には理解しにくいため、学習者の主体的な調べ学習を求め、その成果をパワーポイントで発表してもらうという授業形式にした。Cold war, Cuban crisis, Civil right movementsなど、各スピーチ中に出てくるキーワードを、英語で調べ説明してもらう。一方で「トランス・ランゲジング」の基本概念の一つである母語の活用も認め、2言語を必要に応じて併用しながら説明を効果的に実施するよう促した。前期は授業開始の遅れもあり、プレゼンテーションの機会も各学習者に1回程度と限られた。 後期授業では、前期の続きでB. Clinton, Obama, S. Jobbsなどのスピーチを題材に利用したが、学習者の発表は他人のものを見る都度改善されたものになり、内容の深化(関連図書からの引用など)、発表構成、スピーチスタイル、質疑応答などの充実ぶりには目をみはるものがあった。学生へのアンケートを数回にわたって取ったが、「不安なく英語が話せるようになった」、「自分の英語力に初めて自信を持った」等非常に好評であった。 これらの詳細に関しては、2020年11月20日開催の「大学英語教育学会」関西支部大会に於いてYouTube形式で中間発表したところ、全国から300回を超える試聴があり、質問や有益な提言も多く得たので、今後に活かしてゆきたいと考えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、当初からコロナ禍のため、予定していた3つの小・中学校全てで協力が得られなかった。4月から授業が休止、または学校がロックダウンしたためであり、9月以降も部外者の教室立ち入りは禁止となった。 そのため、当初の計画を大幅に修正せざるをえなくなり、2020年度は、本研究の対象を本来の小・中学生から、代表者が教える大学生に変更した。授業は遠隔であったが、研究の趣旨と目的を説明したところ、幸いなことに1回生の英語クラス(習熟度最上位クラス30名)の全員から許諾と協力の旨を得られた。ただし、倫理規定に従い個人が氏名等で特定されないように最大限の注意を払った。 本研究の申請概要にある「トランス・ランゲージングの導入による、英語を教える教員の自己肯定感の高まりと、主体的・対話的で深い学びを通じて、学習者が英語での学びを実感し、次の課題に主体的に取り組めるような授業作りが可能になるための課題や条件整備の洗い出し」は対象者が大学生となったことで、教える側、学ぶ側それぞれが変わってしまったが、根幹にあたる「英語のスキル指導のみならず、思考・表現力を伴ったコミュニケーション能力の育成」にかかるトランス・ランゲージングの効果を検証する、という点では、日本の英語教育の改善に役立つものであると考えている。 その意味では、未曾有の事態と言える2020年度当初からのコロナ禍の中で臨機応変に対応し、遠隔授業にも苦労と工夫をしつつ、まずまずの滑り出しではないかと考えている。 2020年度に実施予定の「トランス・ランゲージング」の授業も進められ、また学習者へのインタビューや質問紙回答も無事完了している。大学に於いてもこれほどトランス・ランゲージングの授業が、学習者に歓迎されることは予期しなかったことであるため、このままより効能が一般化できるよう、大学生を対象に研究を進めてゆく方向性を考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度に入ってもコロナ禍は一向に改善の兆しを見せず、申請時点での早期英語教育に於けるトランス・ランゲージングの効能の研究は、終息に至るまでの道筋が見えない現時点では最終年度の2022年度まで不可能と判断した。本年度も昨年と条件は同様で、研究協力は小・中学校に求められない状態が続いているため、感染を拡げないためにも無理をしないことが一番大事であろうとの配慮を優先した。 2021年度以降も昨年度と同じく、研究代表者の勤務先で研究を続行したいと考え、様々な手続きを取っているところである。できれば本年度は、外国人留学生や帰国子女が多く在籍するクラスでトランス・ランゲージングの効能の検証をしたいと考えている。何故なら、昨年度本取り組みを実施したクラスに中国人でイギリスで中高を過ごした学生が在籍し、英語と日本語の双方の言語能力の育成に大変授業が役に立ったと回答してきたからである。プレゼンテーションのリソースが英語の場合は英語がやりやすく、日本語の場合はどうしても日本語になってしまう。トランスランゲージングがCummins(2007)が主張するように、各種言語共通の運用を下支えする能力(common underlying knowledge)を活性化するのであれば、表層上の母語を含む個別言語いずれを使ったとしても、知識は蓄積されてゆくものであると考えられる。 母語が英語や他言語の学習者が多いクラスで、トランス・ランゲージングによる授業がどのような影響や効能を示すか、是非とも知りたいところである。また、一方ではいわゆる「純ジャパ」と呼ばれる、日本の英語教育を受けてきた学習者が、このような混成クラスで、どのように外国語学習を捗らせ、自立した英語使用者(EUポートフォリオで言うところの「自立した言語学習者」(ソーシャル・エイジェント)に成長するかも興味深く観察したいと考えている。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により、一切の海外・国内学会出張費用が発生しなかったこと。また、予定していた人件費も発生しなかったため。
|
Research Products
(1 results)