2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K00928
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
白石 恵理 国際日本文化研究センター, 総合情報発信室, 助教 (30816260)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 夷酋列像 / 松前藩 / 蝦夷 / アイヌ絵図 / 松浦武四郎 / 木村蒹葭堂 / 松平定信 / 松浦静山 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、前年度に投稿した査読論文 “Fictitious Images of the Ainu: Ishu Retsuzo and Its Back Story” (Japan Review, no. 36 [2021]: 89-109) を紙媒体およびデジタル版で出版するとともに、論文「蓮月と松浦武四郎ー京と蝦夷、文化・情報の邂逅」(北海道大学芸術学研究室編『北村清彦教授北大退職記念論集 アートと、そのあわいで』中西出版、2021年、84-91頁)を刊行した。また、論文「松前藩の絵画戦略ー〈夷酋列像〉と京都」を査読誌『近世京都』に投稿し、採択され、2022年12月に刊行予定である。 特に、海外の研究者の間でも謎に満ちた絵画と受け止められている「夷酋列像」について、英語を媒介に新しい視点を提示できたことは、アイヌ表象に関する分野を越えた議論の呼び水として有益ではないかと考える。 調査活動については、函館市立博物館にて、男夷図〈イコリカベニ肖像〉、蝦夷人唐子文様碗ほか計10点の文化財史料の熟覧・採寸・撮影を行ったほか、函館市中央図書館にて、「夷酋列像」叡覧文書、「松前候新製大砲記」ほか計7点の文化財史料の熟覧・採寸・撮影を行うとともに、郷土資料文献を閲覧した。 この二年間の活動によって、当初の目的であった、「夷酋列像」制作の意図および同時代の社会・政治・文化との影響関係についての検証は概ね達成できたと考えている。残る一年においては、「夷酋列像」からやや離れた俯瞰的・多面的な視点から、アイヌ絵図の国内外への流出と出版状況について調査研究を展開したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度に続くコロナ禍により、2021年度も国内出張を予定通り執行することが難しかったため、全国に散在する「夷酋列像」の写本を現地調査することができなかった。そのため、写本をめぐる大名ネットワークに関する調査は進んでいない。 しかし代わりに、近世に出版された蝦夷地に関する地誌・紀行・探検記をあらためて整理・再読した結果、「夷酋列像」制作意図のさらなる裏付けにつながり、新たな論文を執筆する契機となった。
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Strategy for Future Research Activity |
調査旅行が予定通り進まないことに鑑み、若干の変更を加え、今後の展開としては、大きく二つの研究テーマを考えている。一つは「19世紀ヨーロッパにおけるアイヌ風俗画の収集と出版」。アイヌ表象に関連する日本の出版物や絵画流出の経緯と伝播の様相を、19世紀ヨーロッパでの出版事情はもとより、各都市での博覧会開催やアイヌ関連コレクション構築との関係性も視野に入れて検討する。特に、近世期以降の日本の多数のアイヌ絵図を高品質な印刷技術によって複製出版した、David MacRitchie “The Ainos” (1892) を主たる研究対象ととらえている。本テーマについては、国際日本文化研究センターが主宰する共同研究「西洋における日本観の形成と展開」活動の一部として、他の共同研究員の助言・批評も仰ぎつつ進める予定である。 二つめは、当初の計画の主軸であった、「夷酋列像」の写本および蝦夷情報をめぐる大名や知識人ネットワークの検討である。こちらは、すでに写本現物の調査を終えている松浦静山と松平定信の周辺に絞って研究を完遂させたい。
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Causes of Carryover |
2020年度に引き続き2021年度もコロナ禍により国内移動が著しく制限された期間が長く、旅費予算をほとんど執行することができなかった。2022年度については、直接経費のうち物品費(図書費)と調査旅費に合わせて5割、残り5割を研究成果発表費用(学会・研究会参加費および報告書印刷経費等)に充当する計画である。
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Research Products
(2 results)