2023 Fiscal Year Annual Research Report
近世中後期の在村知識人と文化環境に関する基礎的研究
Project/Area Number |
20K00932
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
引野 亨輔 東北大学, 文学研究科, 准教授 (90389065)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 在村知識人 / 文化環境 / 商業出版 / 文字言語 / 音声言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度も引き続き、近世中後期に羽前国村山地域における浄土真宗門徒(東本願寺派)の中心的存在であった工藤家の古文書調査を実施し、同時期における在村知識人の文化環境解明に努めた。 今年度実施した調査により、本研究最大の目標であった工藤家古文書全359点の目録作成を完成させ、また今後の研究遂行に必要と思われる重要史料259点の写真撮影も終えることができた。 工藤家文書の調査を通じて解明できたことは以下の通りである。まず18世紀後半に工藤家の当主であった工藤儀七という人物に注目すると、彼は寛政~文化年間の東本願寺伽藍再建に当たり、五年間にわたって京都に設けられた最上御小屋(再建に協力する僧俗が宿泊所として利用した地域ごとの詰所)の世話役を務めている。この世話役は、最上惣同行中から檀那寺再建のために負った借財を肩代わりしてもらうという条件で引き受けた大役だったが、工藤儀七という地域知識人が、より洗練された知識を獲得する上で大きな意味を持った。というのも、彼は京都に滞在するなかで様々な知識獲得機会に巡り会うことができたからである。 工藤家には、本山参詣に際して購入された仏書が幾つか残っており、羽前国村山地域の在村知識人が、商業出版の盛行する江戸時代に刊本から仏教知を得ていたことは間違いない。もっとも、工藤儀七は、在京中に浄土真宗の高僧から聴聞した法話も熱心に筆写している。また、著名な篤信的信者とも交流し、彼らから聞いた話も書き留めている。さらに興味深いことに、工藤儀七はこれらの仏教知を秘匿することなく、周辺地域の浄土真宗門徒たちに書状などで発信することも行っている。 以上のように、在村知識人の知識受容における文字言語と音声言語の関連性を具体的に考察し、また在村知識人相互の情報発信で利用される知的資源の性格を分析したところに、本研究の最も大きな成果を見出すことができる。
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Research Products
(1 results)