2021 Fiscal Year Research-status Report
The International Relations at the End of the Edo Period and the Japan's Modern State Formation Process: From the Viewpoint of Europe's Expansion into Asia in the 19th Century
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20K00938
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
田口 由香 長崎大学, 教育学部, 准教授 (00390500)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 明治維新史 / 長州藩 / イギリス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、長州・薩摩藩とイギリス政府・貿易商社との関係を慶応3年(1867)王政復古に至るまで段階的に明らかにすることで、19世紀の欧米諸国のアジア進出という国際関係を背景として、日本がいかに近代国家を形成しようとしたのかを解明することを目的とする。よって、日本とイギリス双方の史料を用いるマルチアーカイヴァルの研究方法をとる。 当該年度(令和3年度)は、元治元年(1864)下関戦争、慶応元年(1865)条約勅許、慶応2年(1866)幕長戦争、慶応3年(1867)大政奉還の各段階において、イギリスが日本の天皇・将軍の地位をどのように見ていたのかについて検討した。研究成果は次のとおりである。 第一に下関戦争段階においては、幕府に「議会演説」を見せることでイギリス政府の幕府に対する支持(好意)を表明していることから日本の統治者は将軍と認識していたこと、第二に条約勅許段階においては、条約勅許は将軍の統治における地位安定の手段としていることから統治者を将軍が天皇の委任によって統治すると認識していたこと、第三に幕長戦争段階においては、幕府がイギリス政府と公式かつ平和的な関係としていることから統治者は将軍と認識していたこと、第四に大政奉還段階においては、駐日公使のパークスが大政奉還による日本の新しい政治体制を立憲君主制と想定して好意的に評価し、イギリス政府も天皇宛の信任状を出していることから統治者は天皇であるが実質的統治者は将軍と認識していることを明らかにした。 また、これらの研究成果は、2021年度広島史学研究大会日本史部会(2021年10月31日)において、「幕末維新期イギリスから見た天皇・将軍の地位」として研究発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究は、日本とイギリス双方の史料を用いるマルチアーカイヴァルの研究方法をとるため、2020年度から今日まで続くコロナ禍における行動制限によって、国内・海外での史料調査を断念せざるを得なかった。そのため、2021年度の実施計画では、2020年度に引き続き、ケンブリッジ大学図書館所蔵の英駐日公使パークスの往復書簡などを含む「パークス文書」(Papers of Sir Harry Parkes)、長州藩・薩摩藩と貿易取引関係書類やグラ バー商会などとの書簡類を含む英貿易商社「ジャーディン・マセソン商会文書」(Jardine Matheson Archive)、またイギリス国立文書館所蔵の英駐日公使パークスと英外務省との往復書簡を含む外務省文書(FO46/65他)、パークスと英艦隊キング提督の往復書簡を含む海軍文書(ADM125/119他)を調査収集することを予定していたが実施できず、刊行されている史料などを用いて研究を進めざるを得なかった。 研究発表については、2021年度は国内の学会がオンラインでの研究大会を実施したため、研究成果を発表することができたが、国際学会での発表はオンラインでも開催されなかったため実施することができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる3年目には、慶応3年12月王政復古に至る段階における長州・薩摩藩とイギリス政府・貿易商社との関係を明らかにすることを計画している。 今後の研究の推進方策としては、今年度も現段階(令和4年5月)では未だ新型コロナウイルスの終息がみられず、今年度中に国内外の史料調査がどこまで実施可能か未定であるが、まずは国内の史料調査として日本側の史料として山口県文書館・鹿児島大学図書館・東京大学史料編纂所所蔵などにおいて史料調査の実施を予定している。また、状況が改善すればイギリス側の史料としてケンブリッジ大学図書館・イギリス国立文書館での史料調査を実施する予定である。今後も史料調査が難しい場合は、1年目・2年目と同じように、これまでに収集した史料やオンラインで閲覧できる史料、刊行の史料集などを活用するとともに、日英各所の協力者から史料や研究の助言をいただくことで研究を進める。しかしながら、3年間の補助事業期間中において2年のあいだ史料調査を実施することができなかったため、可能であれば研究期間の延長を申請させていただくことも考えている。 2022年度の研究成果は、学会発表や論文投稿などによって発表することを計画している。
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Causes of Carryover |
本研究では国内外の史料調査が中心になるため、大部分を旅費として計上していたが、2020年度から続くコロナ禍における行動制限のため出張を断念し、また、学会発表もオンライン開催になったため出張費が必要なかった。一部はオンラインでの史料収集に必要な機器の購入として物品費に充てたが、次年度使用額が生じた。 今年度は、これまで実施予定だった史料調査を実施するため、可能な範囲で所蔵機関での調査を行う旅費として使用する予定である。
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