2020 Fiscal Year Research-status Report
近現代日本における生業と生活世界に関する実証的研究
Project/Area Number |
20K00946
|
Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
沼尻 晃伸 立教大学, 文学部, 教授 (30273155)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 生業 / 生活世界 / 山葵 / 石工 / 家族周期 / 日記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績の概要は、以下の3点にまとめることができる。 第一に、静岡県の山間部に居住した人物が記した日記史料(『鉄五郎日記』)の翻刻作業を、RAの補助を得て、1920年代から1964年にかけて行うとともに、日記に登場する人物や地名に関する聞き取り調査を、当該地域に居住する人物から行った(聞き取り調査は、新型コロナウィルス感染拡大の状況が続いたため、電話にて行った)。 第二に、『鉄五郎日記』を主たる対象として、戦間期から日中戦争期にかけての生業と生活との関連に関する分析を行った。同史料から読み取れる生業は、「家仕事」と「雇われ仕事」に分類でき、所有地の茶や山葵などの生産に見られる私的性格とともに、それらの生産や「雇われ仕事」(主に石工としての仕事)、運搬作業などが家族や親戚関係、仕事仲間とその家族が携わることによって初めて成り立つという意味での共同性を有した。生業は生活、なかでも妻の妊娠・出産・育児といった家族周期や家族構成員の病気・ケガの影響を強く受けるため、出産時には妻の仕事を減らし鉄五郎や雇い人が妻の仕事を代行する場合もあったが、必ずそれができるわけではなく、妻に過剰な負担がかかる場合もみられた。特に、1930年代半ばは生業と生活との緊張関係が顕著にみられた。その際に鉄五郎は、自らは育児や家事、看病などに時間を費やすなど生活を優先する態度を取るとともに、種々の社会関係の利用を通じて生業の一部をアウトソーシングし仕事の手伝いを得るなどして窮状を脱しようとした。これらの点を、2020年度政治経済学・経済史学会秋季学術大会自由論題報告(2020年10月24日)において発表した。 第三に、生業と生活に関する研究史の検討を行い、近年の地域史研究に対して、地域社会のなかでの生活に関わる諸関係の存在を重視し、それと関わらせて自治体政策を理解する視点の重要性を指摘した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスの感染拡大という、本研究を構想した段階では予期せぬ事態に見舞われたため、本研究が重視している静岡県における文献収集調査の実施が困難となり、聞き取り調査に関しても電話で行うのに止まった。そのため、研究の順序を変え、本年度は、屋内での作業が可能な、既に写真撮影済であった日記史料の翻刻作業とそのデータ分析を中心に研究を進め、当初2年計画で進める予定であった『鉄五郎日記』の翻刻作業に関しては、同日記が現存する1964年まで本年度中に終了させることができた。これらを利用して、戦間期から日中戦争期にかけての同日記史料を基礎史料とした学会報告を行うことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度実施できなかった、静岡県などにおける公文書・文献史料収集や研究対象地に直接赴いての聞き取り調査・史料収集調査を集中して行い、研究成果を発表していく予定だが、研究代表者の勤務先が東京都に所在するため、新型コロナウィルスの感染拡大の影響で次年度以降も種々の調査が実施し難い状況が続く場合も想定される。そのような場合には、以下の2つの点を中心に研究を進め、成果を発表していく。 第一に、すでに分析を始めている『鉄五郎日記』に即した検討をより深化させていく。また、写真撮影などを終えているその他の一次史料の翻刻と検討を優先して開始する。 第二に、当初の研究方法を一部変更する。すなわち、静岡県など特定の対象地域を中心とした研究だけでなく、出版されている図書・刊行資料や勤務先のアーカイブズである立教大学共生社会研究センターが所蔵しているミニコミ資料などを利用して、戦間期から戦後にかけての生業と生活世界に関する諸文献を広く収集し、それらに関する実証的研究を進めるとともに、生活世界の側から人々がどのように自治体や国の政策を把握し、自らの利害を組み込もうとしたのかという点についての実証的研究を進める。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの感染拡大のため、当初予定していた静岡県などへの資料収集調査・聞き取り調査の実施ができなかったため、旅費の支出がほとんどなく、その分次年度使用額が生じた。 次年度、新型コロナウィルスの感染が収束されれば、今年度実施できなかった調査に重点を置いてを研究費を使用する予定であるが、感染収束が見込めない場合、「今後の研究の推進方策」に記したように、既に撮影済みの一次史料の翻刻・データ整理の補助をRAに依頼することや、静岡県など当初設定した対象地域にとらわれずに、生業と生活世界に関する図書・刊行資料の収集を行うとともに、東京が勤務先であっても調査可能な図書館・文書館などで史料収集を行う。
|
Research Products
(2 results)