2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K00962
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
伊藤 真実子 学習院大学, 付置研究所, 研究員 (40626579)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 在外日本関連文物 / 万国博覧会 / 博覧会 / 博物館 / 展覧会 / 日本展示 / 在外コレクション / 輸出工芸品 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020度は、コロナ禍により当初予定していた国内外(ドイツ・オランダ・長崎など)での調査ができず、ベルリンでの報告予定の学会もキャンセルとなってしまった。(2022年催行予定)。そこで渡航と調査が可能になった際の基本情報の収集(近世・近代に日本に滞在した外国人を調べ、彼等の作成した日本に関する文献・書簡、関連する研究書)をおこない、その一覧を作成した。 次いで、在外日本関連文物のなかでも現存するヨーロッパの王侯貴族コレクションについての現在までの研究成果を調査した。とりわけ肥前陶器を中心としたコレクションについて収集の経緯/当時のコレクションの場所・展示の開催日時/開催規模/分類項目/コレクターの背景/収集物全体の特徴/関連文献など情報の整理につとめた。肥前陶磁器の輸出と海外での受容についての研究は、歴史学、美術史のみならず、近年では考古学の研究が充実し、東アジアはもとより、アフリカ、中南米での肥前磁器発掘により、肥前磁器が世界各地に渡っていたことが明らかになってきた。発掘調査成果は、文物の流通経路などの貿易に関する状況や使用状況についての貴重な研究情報であることから、現存するコレクション形成につながる情報として基盤情報の項目に追加した。 整理したこれらの情報を基に、江戸時代における肥前陶器の輸出と海外での受容について考察し、肥前陶器の江戸時代の輸出状況と、佐賀藩の1867年パリ万博への参加をはじめとした幕末の輸出拡大施策と、維新後の明治新政府で大隈重信・佐野常民ら旧佐賀藩出身者が1873年ウィーン万博の参加の中心を担ったことを関連づけて考察し、「1867年パリ万博・1873年ウィーン万博と佐賀藩ネットワーク―幕末・明治の万博参加と輸出陶磁器ー」を作成した。本稿は『ウィーン万国博覧会と明治日本』に掲載予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020度は、コロナ禍により渡航および国内での移動制限があり、国内外(ドイツ・オランダ・長崎など)で予定していた博物館・図書館などが所蔵する未調査史資料についての調査をすすめることができなかった。そのかわりに、近世・近代に日本に滞在した外国人について調査し、その基本情報(作成した日本関連文献・書簡、関連する研究書)などの一覧を作成した。加えて、在外コレクション研究のなかでも輸出陶磁器について、歴史学のみならず、美術史、考古学など学際的に調査した。輸出陶磁器については、歴史学ではオランダ商館長やオランダ東インド会社の文書記録から、美術史では現存するヨーロッパの王侯貴族の陶磁器コレクションから、考古学では世界各地での出土資料から各々分析調査されており、オランダ東インド会社、イギリス東インド会社、唐船などにより東アジア経由で中東、ヨーロッパ、中南米にも肥前磁器が広まっていたことを研究・考察した。これらをもとに、「1867年パリ万博・1873年ウィーン万博と佐賀藩ネットワーク―幕末明治初期の万博参加と輸出陶磁器ー」を作成した。本稿は『ウィーン万国博覧会と明治日本』に掲載予定である。 この論文作成過程において、肥前輸出磁器などの在外日本関連文物調査は、近年とみに様々な分野からの研究の充実が見られる一方、研究分野の違いのためか相互の参照がそれほど十分ではないという実感を得た。そこで、在外コレクション研究が今後さらなる多角的・総合的な研究になるよう、在外コレクションの文物そのものに加えて、コレクション形成にかかわる事柄についての基盤情報や、近年豊かになってきている様々な分野からの研究が一覧できるような情報基盤も対象することの重要性に気がつき、次年度以降それらについて積極的に調査し、情報の整備と公開をすすめていくことにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は在外日本関連文物コレクションの調査を主軸とするが、現在、コロナ禍により海外への渡航や国内移動が制限されている。2021年度も引き続き同様の状況であることが予想される。また、国内においても緊急事態宣言等の発令により移動の制限、博物館・図書館の利用制限も予想される。そこで2020年度に引き続き、刊行ないしネット上で得られる既存の情報や研究成果をもとに、在外コレクションおよびコレクション形成に関連する研究と情報の収集と整理をおこない情報基盤を形成し、移動や調査が可能になった際への準備を行う。 2020年度はコロナ禍により多くのシンポジウムが中止・延期され、研究書や論文の刊行が遅れるなどが見受けられた。その一方2020年度後半には、オンラインへの移行がかなり進み、ワークショップ、シンポジウムなどのオンライン開催がすすみ、本研究に関連するオンライン開催でのシンポジウム・展覧会などで情報を収集することができた。それにより、このような状況下でもweb上で発信していくことにより研究者間の情報共有が推進されるのではと思うに至った。そこで、2021年度は、調査段階や情報取集中など調査過程のものであっても積極的に発信し、情報共有することで当該研究に関する調査研究の充実により積極的に講じていくことに努める。 また、本研究は在外コレクションとして現存する文物やその購入・譲渡経緯などを裏付けるや史料を中心に調査する予定であったが、肥前輸出陶器に関する考古学調査は発掘調査が日本以外の土地での受容についての考察を深めることを2020年度の調査研究で実感したことから、今後は当初予定していなかった考古学の研究成果についても調査を深めていくなど、2021年度もひきつづき歴史学にとどまらずに情報を収集していくことに努め、在外コレクション調査についての情報基盤をより充実させていく。
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Causes of Carryover |
本研究は在外日本関連文物コレクションの調査研究を目的としているため、海外の図書館、美術館、大学などでの調査を計画し、またそれを補完するために長崎など関連地域での調査も計画していた。しかしながら全世界でのコロナ禍の状況により渡航制限および国内での移動制限、さらには国内外の博物館、図書館などの関連施設が閉鎖される状況にいたり、当初予定していた渡航調査などをすることができなかった。それにより、当初予定していた渡航調査費を使用することができず使用額が当初計画していたよりも低くなった。2021年度のコロナ禍の状況は、ワクチン供給および新株など予想がつかないが、渡航や移動が可能となり、海外の図書館、美術館、博物館などでの調査が可能となるのであれば、速やかに再開したい。 一方で、オンラインでの情報共有や情報交換の可能性が飛躍的にすすみ、ネットやコンピューターなどの電子機器の使用はこれまで以上に不可欠となった。ネットでの情報交換の際、本研究は美術品やデータなど情報量が莫大であり高度な機能の電子機器が必要となる場合があるため、新たな技術を搭載した電子機器の購入なども状況をみながら検討していきたい。
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