2020 Fiscal Year Research-status Report
実証的地名研究と地名の歴史資料化―カリヤドとは何か―
Project/Area Number |
20K00974
|
Research Institution | National Institutes for the Humanities |
Principal Investigator |
青山 宏夫 大学共同利用機関法人 人間文化研究機構本部, 大学共同利用機関等の部局等, 理事 (00167222)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 地名 / 道 / 川 / 中世 / 歴史地理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初計画では、岩手県、長野県、山梨県、静岡県、愛知県、岐阜県、三重県等を中心に毎年度2県程度について、文献・史資料の調査・収集、地籍図調査、聞き取り調査等を現地で実施する予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、当初計画にもあった地名辞典等から関係する小字地名を抽出する作業を先行的に実施した。 具体的には、長野県、静岡県、岐阜県、三重県の4県について、『角川日本地名大辞典』に掲載されている小字一覧から関係地名を抽出した。対象の頁数は4県の合計で約330頁であり、1頁あたり約900件の小字が掲載されているので、合計約30万件の小字から関係地名を抽出した。その結果、漢字表記では「仮宿」「狩宿」「借宿」「苅宿」と様々であるが、「カリヤド」とよむ地名を長野県で5箇所、静岡県で5箇所、岐阜県で5箇所、三重県で2箇所の、合計17箇所を抽出することができた。限られた文献調査とはいえ、4県にわたる広域において約30万件の地名を検討することから得られた結果は、一定の信頼性を有すると評価できる。 これら17箇所の地名のうち、静岡県御前崎市白羽字借宿は今回の作業で初めて見出されたものである。そこは中西川右岸に面する段丘上にあって、対岸の段丘・丘陵と向き合って中西川の狭隘部を形成する位置にあたる。これまでの研究で指摘した、河川に向かって突き出た台地や微高地に位置するという「カリヤド」の地形的特徴を、この御前崎借宿も有していることがわかる。また、当地の背後に続く丘陵には古代の官営の牧である「白羽官牧」があり、中西川対岸の段丘上には式内社にも比定される白羽神社があることから、古くから交通路があったことも想定される。これらの点を踏まえると、御前崎借宿は地形的にも歴史的にも中西川の渡河点であった可能性が高く、これまでの研究で指摘してきた「カリヤド」の特徴と一致することが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止する観点から、当初予定していた現地調査を控えざるをえなかったが、1箇所(岩手県)については文献調査を中心に実施することができた。また、出張を伴わない文献調査やオンライン等による情報収集、およびそれらの検証等を中心に進め、現地調査では得られない成果を上げることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルス感染症の感染状況が予断を許さないことを考慮して、今年度に引き続き、文献調査とオンライン等での情報収集を中心に進める。とくに、地名辞典等の小字一覧の網羅的な調査は有意義であることから、今後、未調査の東海地方および関東・東北地方についても実施する計画である。あわせて、地形図、空中写真、各種文献・史資料等、オンラインで利用可能なものを積極的に活用して、「カリヤド」という地名の立地条件の検討を進める。また、現地調査についても、新型コロナウイルス感染症の感染状況に注意を払いつつ可能な限り実施する。
|