2020 Fiscal Year Research-status Report
琉球士のライフコースの解明を主題とした琉球家譜の研究
Project/Area Number |
20K00977
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
武井 基晃 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00566359)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 琉球 / 家譜 / ライフコース / 比較家族史 / 首里 / 那覇 / 八重山 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.学術発表:比較家族史学会の秋季大会で開催されたシンポジウム「東アジアはどこまで「儒教社会」か?―チャイナパワーとアジア家族」(2020年10月24日(土)、オンライン開催)で、東アジアの比較家族研究において課題となっていた琉球王国の家制度を論じることができる研究者として登壇し、「位牌継承を儒教から考える―沖縄の4つの禁忌を中心に」と題して、琉球王国時代の近世の士において中国の宗族に似た父系出自集団の仕組みによる身分の導入と、既存の士の系統を絶えさせないための規定について解説し、さらに琉球王国終焉後の近代以降の沖縄において父系出自集団とそれを中核とした祖先祭祀の実施が理想であるとする価値観が発生したこと、一方、そのような父系血筋の強調が加速したとされる大正時代においても血筋ではなく家筋を選択(=いわゆる「シジタダシ」に抵抗)して今日に至る家系もあることなど研究成果を発表しました。 2.成果の公開:沖縄県の石垣島在住の調査対象者から提供を受けた、その家の琉球時代における家譜(八重山系家譜)『林松姓系図家譜』について、内容を読解しました。その結果、1771年の八重山地震・大津波時の当該家族の人的被害と養子による人的補強の記録を発見し、また代々の男児の命名の規則、誤記と思われる箇所の検討と修正を行いました。この成果について、原本のカラー画像と読み下しを対照し解説を加えた冊子を作成し、現地の関係者(子孫)・公立図書館などに提供し、成果を公開しました。 3.教育:オンラインでの家譜入門講座を筑波大学の民俗学および東洋史に関心を寄せる大学院生・大学生を対象に2回実施(2020年7月16日・30日)しました。琉球家譜史料の基本構成や様々なバリエーションを概説するだけでなく、中国の宗族における族譜との異同についても討論する場となりました。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
春以降の新型コロナ禍によって、残念ながら現地調査(フィールドワークおよび沖縄県下の図書館でのライブラリーワーク)については、当初計画していた予定の通りには進められませんでした。 しかしながら、それに代わって、上記「研究実績の概要」の通り、1.学術発表、および2.調査対象者と連携した資料分析は計画以上に進めることができました。これを当初の研究計画と照らし合わせますと、次の通りです。 1.交付申請書に記した「包括的な琉球士のライフコース研究は課題のままなので、それを進めるとともに、日本の家族史の研究へとの接続を目指す必要」について、初年度からスタートすることができました。比較家族史学会は本研究が掲げる「琉球士のライフコースの解明」に関して、学術論文の投稿を目指す学会の1つでしたが、初年度からシンポジウム報告の機会を得られ、しかも、儒教的家族制度という課題を東アジア各国の比較家族研究を進める国内外の多くの研究者と連携し議論できる関係を築きあげることができました。 2.八重山系家譜の分析と実績についても、現在の沖縄本島を主たる対象としていた当初計画の範疇外でしたが、資料を得て分析し成果に加えることができ、交付申請書に記したように、得られた成果を「子孫をはじめ調査対象者に積極的に還元し対話的共有を目指すとともに、現代の当事者によるチェックを受ける機会」について十分に進めることができています。 以上の点については、当初の予定を越えて成果を得て、以降の年度につなげることができました。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度も前年度の秋季大会のシンポジウムに続いて、比較家族史学会の春季大会シンポジウム「東アジアはどこまで「儒教社会」か?―チャイナパワーとアジア家族」(6月19日・20日 オンライン開催)にて2日間にわたって登壇し、琉球王国の家制度の担当者として「琉球王府の家譜制度と儒教―新たな姓・家系の成立の仕組みを中心に」と題して報告することが決まっています。 これによって、より本格的に、本研究の主題である琉球士のライフコースの解明についての学術発表を進めることができ、引き続き、東アジアの家族研究について研究者と議論し自身の研究成果を公開して次の段階へと発展させる機会として活かしたいと考えています。なお、シンポジウム成果は学術論文として学会誌の『比較家族研究』に投稿する話も進んでいます。 一方、新型コロナ禍下、学術発表の場はオンライン化が進んでいますが、現地調査(フィールドワーク・ライブラリーワーク)が課題のままです。このことについて、すでに手元にある琉球家譜資料の分析と視覚資料化のプロセスを予定より前倒しして先に進め、合わせて調査対象者への電話・オンラインでのインタビューを計画しています。
|
Causes of Carryover |
新型コロナ禍下において旅費の支出が見込めそうになかったことから、当初計画の範囲内で前倒しして物品の購入を進めましたが、次年度使用額が生じました。 研究発表などのオンライン対応に必要な支出も行い、これについては十分に活用できました。 次年度以降は状況を見ながら、令和2年度にでた次年度使用額は、旅費および人件費・謝金等の支出に充てる予定です。
|
Research Products
(4 results)
-
-
-
-
[Book] 方法と課題2020
Author(s)
小川直之、新谷尚紀
Total Pages
244
Publisher
朝倉書店
ISBN
9784254535815