2022 Fiscal Year Research-status Report
琉球士のライフコースの解明を主題とした琉球家譜の研究
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20K00977
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
武井 基晃 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (00566359)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 琉球 / 家譜 / ライフコース / 比較家族史 / 東アジアの儒教社会 / 姓の創設 / 家系の継承 / 女性 |
Outline of Annual Research Achievements |
近世琉球の家族制度について個々人の履歴史料を解明し、かつ今日における子孫の思考や行動も論じる本研究課題にそくして、東アジア社会の家族史研究との議論を深めながら、下記の研究成果を公開できました。 1.学術発表:近世琉球王国の士(サムレー)の一門の歴史について、その子孫に当たる人々が今日においていかに思考し行動するのかを、A.子孫たち自らの手による自分たちの祖先の歴史にかかる表象行為およびその成果の分析と、B.子孫と祖先の交渉の場としての祖先祭祀の分析の2点から明らかにしました。Aについては、「家譜を書き残す子孫たち―沖縄の自費出版・私家本を資料に―」と題して学会発表しました(歴史人類学会第43回大会、2022年11月26日(土)、オンライン開催)。Bについては、「清明節の墓参を中心に―新暦と旧暦―」と題してシンポジウムでコメント報告(お茶の水女子大学国際日本学シンポジウム、2022年9月17日(土)、オンライン開催)し、それをもとにした成果がすでに刊行されました(「沖縄の清明祭のお供えと、墓の今後」『比較日本学教育研究部門研究年報』19号、2023年3月25日)。 2.成果公開:比較家族史学会でのシンポジウム報告(2回)の成果が書籍として刊行(『東アジアは「儒教社会」か? アジア家族の変容』小浜正子・落合恵美子編、京都大学学術出版会、2022年12月)され、第6章「姓の継承・創設―近世琉球の士の制度と、近代沖縄のシジタダシ―」を分担執筆しました。近世琉球社会における姓・家系・ライフコースや女性の役割(琉球士の移籍や途絶えた一門の再興、それらに際した姻戚の重要性、また功績・献金に対して民間人や女性の士身分への取り立て)について、琉球の家譜(系図)資料に記録された個々人の履歴にもとづき東アジアの家族研究および儒教研究の文脈で考察し、近世から近代初頭におよぶ論点を整理できました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.研究企画段階において提起した、包括的な琉球士のライフコース研究という課題、さらには日本の家族史の研究へとの接続を目指すという目標について、日本史のみならず東アジア各国を対象に比較家族研究を進める研究者と議論を重ねることができました。本研究期間の初年度から2年間にわたって比較家族史学会のシンポジウムに登壇して積極的に発表を重ねてきた成果が上記「研究実績の概要」の通り、分担執筆した書籍として刊行されるなど、計画以上に進めることができています。 2.これに関連する活動として、2023年3月にベトナムの漢籍研究の中心を担うハンノム研究院(漢喃研究院 Han Nom Research Institute)・日越大学(ともにハノイ市)への日本からの研究者の訪問団に参加して、同院が所蔵する史料・碑文をもとにした家族史や、女性史をめぐる議論と交流の機会を得ました。 3.研究期間の開始当初は新型コロナ禍によって実施が滞っていた現地調査(沖縄県でのフィールドワークおよびライブラリーワーク)をある程度進めることができましたが、那覇市立歴史博物館での家譜史料の閲覧の成果にもとづいた学会発表を行うため、さらにこれまでの成果をフィードバックしたフィールドワークを重ねるために、研究期間の1年延長を申請し、承認されました。
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Strategy for Future Research Activity |
東アジアの家族研究について研究者と議論しながら研究成果を公開し、家族制度の比較史的議論を発展するために、研究期間の延長申請が認められたことから、2023年6月の比較家族史学会での個人発表にエントリーし、すでに受理されました。近世の琉球士の家族の履歴および家族構成を分析し、祖父の長命あるいは父の早逝などによって孫の代が家統を継承したライフコースの事例を中心とした研究成果を発表する予定です。 新型コロナ禍については影響がかなり少なくなっており、期間延長することで、祖先祭祀行事の参与観察など、やや遅れていたフィールドワークの成果を補おうと計画しています。 これらをふまえて、本研究課題の成果を総括するとともに、次の研究課題の企画に向けた考察を続けます。
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Causes of Carryover |
比較家族史学会研究大会にて本研究課題にかかる近世琉球の家譜資料の分析成果を報告する機会が得られたことと、沖縄での補充調査および総括的なフィールドワークを実施する必要が生じたことから、それらの実施のための旅費等を計上して研究期間の1年延長を申請し、承認されました。
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Research Products
(4 results)