2020 Fiscal Year Research-status Report
華北宗族の解体と台湾分支形成そして再融合:20世紀後半僑郷山東を巡るネットワーク
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20K01000
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
荒武 達朗 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (60314829)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 山東 / 宗族 / 同郷会誌 / 台湾 / 移民 / 国共内戦 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は疫病の流行により海外調査・国内調査が制限を受けた為、遠隔を通じた資料収集により基礎的な研究を行った。内戦期については既有の資料を整理しつつある。今年度の新たな作業は台湾(中華民国)における外省人による“同郷会誌”の正確の概括である。同郷会誌は1962年の四川省同郷会編『四川文献』を嚆矢とし、その後各地の同郷刊行物が出現した。山東省同郷人士による『山東文献』は1975年6月に創刊し2003年3月に休刊するまで合計112期が出版された。 当初は望郷の念と反共精神が濃厚であり抗日戦争・国共内戦・遷台の体験など同時代の記録、並びに記憶の中の故郷山東の歴史文物、風俗習慣、名人故事などの随筆が中心であった。このような同郷雑誌は刊行当初は各地の眷村に住む人びとの交流の場として機能している。 しかし刊行開始時点においてもすでに遷台より30年弱の時間が経過している。着実に本土化が進行していた青年層にとって故郷山東は遠くなじみのない場所であった。『山東文献』の後記には1980年代以降、投稿数の減少と山東人の関心度の低下に対する危機感が語られるようになる。人びとのアイデンティティの拠り所は「台湾」へと傾斜していった。その典型を1987年の戒厳令解除、大陸探親開放後の「大陸訪問記」に見ることができる。40年近くを経て故郷を再訪した人びとの目に映る故郷は台湾に比べて遅れた世界であり、社会制度も大きく異なり、失望をもたらした。ここに山東は帰還すべき故郷ではなく同族・同郷の人びとの住まう関わりのある土地の一つと位置づけられるようになる。結果、山東と台湾の間には同族組織、同郷組織の対等な交流がとりもたれるようになった。一例として『古城陽』など新しい世代の同郷雑誌の刊行を挙げることができる。これは故郷山東への帰属意識の強い世代とは異なり、台湾に根ざした新世代の山東人の手によるものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度の目的の一つである内戦期に関する文献整理はこれまでに収集したものが中心であり、順調に進行した。 もう一つの目的であった台湾での文献収集は疫病の流行のため不可能となった。そこで手近に閲覧可能なドキュメントを中心とした作業を行う必要があった。この点、台湾の国家図書館などの電子資料の開放が進んでおり、その恩恵を得てある程度の文献を収集することができた。新たな知見については「研究実績の概要」で記した通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
疫病の収束を待って2020年度実施予定だった台湾の中央研究院・国家図書館などでの山東同郷組織関係文献調査、ならびに2021年実施予定の香港中文大学での文献『内部参考』の調査を実施する。2021年度の下半期においても海外渡航が不可能な場合は、国内から台湾国家図書館や中央研究院所蔵の電子資料庫より関連文献を収集するなど、オンラインでの文献調査を重点的に実施し、海外への渡航調査は2022年度へと持ち越すこととする。
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Causes of Carryover |
疫病の流行のため2020年実施予定の台湾調査が不可能となったのが最大の理由である。旅費のみならず、台湾で購入予定であった資料の経費、資料複写費、人件費の未使用額が生じた。 状況の好転により、2021年度下半期または22年度においてこれらは消化する予定である。
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