2021 Fiscal Year Research-status Report
トルコ共和国建国期における権威主義体制の形成とその社会への浸透
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20K01001
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小笠原 弘幸 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (40542626)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | トルコ共和国 / オスマン帝国 / アタテュルク / ズィヤ・ギョカルプ / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、オスマン帝国期末期からトルコ共和国初期にかけてのナショナリズムと権威主義との関係について研究を進めた。その成果として、トルコ・ナショナリストで、トルコ共和国のイデオローグの一人であったズィヤ・ギョカルプの論考『トルコ化・イスラム化・近代化』の前半部を翻訳したことが挙げられる(共訳、『史淵』159号、2022年3月、119-145頁)。ギョカルプは、近代化を大前提とし、トルコ主義を国民統合の中心に据える一方で、イスラムもそれと矛盾するものではないと論じた。また、これまでのトルコ人を形式主義(原理原則の表面上の適用に終始するやり方)であると批判し、伝統主義(生きた形で過去の蓄積を活用するやり方)であるべきだとも主張した。すなわちギョカルプは、強権的に近代化や民族主義を強制的に押し付けることなく、調和的な国民国家をいかに形成していくか、という考察に意を払っていたといえる。しかし、トルコ共和国の実際における政策は、近代化とトルコ民族主義、そして世俗主義を強権的なかたちで国民に強いるものであった。いわば、ギョカルプの論考が持っていた可能性が、無視される形で国づくりがすすめられたのだった。これは、トルコ共和国建国間もなくして、ギョカルプが早世したことも影響しているかもしれないが、アタテュルクの持つ権威主義的性格は、遅かれ早かれ必然的にギョカルプの思想と齟齬をきたしとみて間違いなかろう。本論考の翻訳と分析を通じて、トルコ共和国初期における体制の理解がより深まったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度もコロナ禍により、トルコ共和国の渡航、そして国際学会への参加はできなかった。しかし、インターネットや現地にいる研究者を通じた史料調査や情報交換を通じて、可能な限り補完することができた。その意味で、(2)と(3)のあいだで、やや(2)寄りの状況だといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は本研究課題の最終年度である。本年度では、2021年度に進めたズィヤ・ギョカルプの論考『トルコ化・イスラム化・近代化』の翻訳を完成させるとともに、研究の成果を学会発表の形で公開する予定である。また、なおコロナ禍が落ち着いてはいないものの、夏期にトルコ共和国において史料調査を行うことを計画している。場合によっては、研究期間を一年間延長することも想定している。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、海外出張ができなかったため。2022年度は、海外出張を計画している。
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