2023 Fiscal Year Annual Research Report
トルコ共和国建国期における権威主義体制の形成とその社会への浸透
Project/Area Number |
20K01001
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小笠原 弘幸 九州大学, 人文科学研究院, 准教授 (40542626)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | オスマン帝国 / トルコ共和国 / 共和制 / 権威主義 / ムスタファ・ケマル |
Outline of Annual Research Achievements |
成果の第一は、九州史学会大会の全体シンポジウム「共和国の20世紀」において、「オスマン帝国/トルコ共和国における共和主義」という題目で報告を行ったことである。これは、オスマン帝国から連なる共和主義の潮流と、トルコ共和国初期における共和国宣言とそれ以降の潮流との、連続と断続について論じたものである。オスマン帝国においては、17世紀より、イタリアなどの都市国家を指して共和制という語が用いられた。君主制を前提とするオスマン帝国において、共和制は否定すべき存在であったが、19世紀後半には立憲制と同義で共和制の語が用いられることもあった。トルコ共和国における共和主義は、ジャコバン的な、独裁と権威主義につらなる性格を持つものであり、これはオスマン帝国末期から顕著になってきた特徴である。この傾向が、トルコ共和国になって、初代大統領ムスタファ・ケマルの権力掌握にともなって、さらに権威化がすすんだと位置づけることができる。本シンポジウムでは、トルコ史に加えて、ドイツ史と朝鮮史からの報告、そして日本史研究者からのコメントがなされた。本シンポジウムを通じて明らかになったのは、トルコ、ドイツ、朝鮮それぞれの国で、同時期に共和制が展開したこと、ただしそれぞれの求める共和制が異なるものだったということは、共和制という政治形態はひとつの「器」であり、その内実は各国の状況によって可変的なものであった、ということであった。 成果の二つ目は、トルコ共和国の建国者の伝記『ケマル・アタテュルク』を刊行したことである。トルコ共和国初期の体制は、かなりの程度、アタテュルクによってデザインされたものといえる。アタテュルクは、複数政党制導入を試みたこともあったが、一党独裁体制を布き、ライバルを排除して権威的な体制を作りあげた。その権威体制は、ひとつの政治文化として現在のトルコに至るまで影響を与えているといえる。
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