2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K01002
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
小林 亮介 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (50730678)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | チベット / 清朝 / 第一次世界大戦 / 中華民国 / イギリス / 東チベット |
Outline of Annual Research Achievements |
研究期間の一年目は第一次世界大戦後の中国・イギリス・チベット関係を考察するための文献調査・収集・検討を目的とした。Covid-19の世界的流行の影響を受け、イギリス訪問が困難となったため、予定していた英国国立公文書館での調査は実現できなかった。しかし、同文書館が緊急対応としてオンラインでの資料公開・提供サービスを拡充したこともあり、一定の調査を実施することができた。このほか、中央研究院近代史研究所(台北)がオンラインで公開している中華民国北京政府外交部の資料などを丹念に検討することにより、本研究の核心に関わる、1918年における東チベット境界紛争の停戦交渉の実態を探る上で重要となる外交文書を多く確認できた。 これらの史料と、前科研にて収集したチベット語史料などを比較検討し、チベット側の軍事行動の根拠となった1914年シムラ条約第9条の解釈をめぐって、イギリスとチベット間で大きな認識のズレが存在したことを確認し、それが停戦交渉妥結をめぐる最大の焦点となったことを明らかにした。その成果の一端は、2020年12月に開催された九州史学会の東洋史部会において報告した(「第一次世界大戦期のイギリス・中国・チベット関係 :東チベット境界紛争(1917-1918)を中心に」)。このほか、前科研で取り組んだ課題とその成果、そして本科研一年目の研究を通じて得た知見を踏まえつつ、『チベットの歴史と社会』上巻(臨川書店)に、チベット近代史をダライ・ラマ政権の政治外交史に焦点を当てて概観する論文を掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画していた英国国立公文書館での調査が実現できず、同文書館に所蔵される個人文書(書簡・日記)については収集困難となった。ただし、同文書館が急遽拡充したオンライン資料公開・提供サービスをはじめ、国内でアクセス可能な文献を最大限活用して一定の成果を挙げたため、研究の大幅な遅れは避けることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
二年目は、アメリカ合衆国での史料調査・収集・分析とその成果報告を予定していたが、海外調査は引き続き難しくなると予想されるため、本年度は研究計画を修正し、第一次世界大戦後のアメリカ・チベット関係に関する研究は実施を見合わせる。 これにかえて、第一に、これまでに収集した史料と、海外から購入可能な文献、及びオンラインで収集できる史料を丁寧に整理・分析し、チベットと大英帝国・中華民国の関係の分析を引き続き進める。特に中華民国側の動向については『重慶圖書館藏劉贊廷藏稿(全16冊) 』(国家図書館出版社、2014年)をはじめ、1918年東チベット停戦協定の中国側代表である劉贊廷関連資料の検討を進める。 第二に、国内外における研究成果発信に注力していきたい。まず、研究計画に明記したように、前科研・本科研を踏まえた日本語単著の執筆を進める。さらに、国際共同研究"The Tibetan Army of the Dalai Lamas,1642-1959"の研究成果を米国にて出版する計画が進んでいるため、前科研・本科研において得た知見を反映させた論文を執筆する予定である。また、ヒマラヤ・チベット学のオンライン・エンサイクロペディアであるTreasury of Livesの近現代史データベース構築プロジェクトに昨年度から参加することになったため、前科研・本科研の成果を取り込みつつ、20世紀前半チベットの歴史人物に関する伝記の執筆を進めていく。
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Research Products
(7 results)