2020 Fiscal Year Research-status Report
伝統中国の官僚体系の継承と変質ー南宋時代の人事政策と下級知識人ー
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20K01003
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
小林 晃 熊本大学, 大学院人文社会科学研究部(文), 准教授 (80609727)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
徳永 洋介 富山大学, 学術研究部人文科学系, 教授 (10293276)
丸橋 充拓 島根大学, 学術研究院人文社会科学系, 教授 (10325029)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 南宋 / 官僚制度 / 人事政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては、2~3ヵ月に一度の頻度で、東京大学に日本各地の研究者を招集し、『慶元条法事類』や『吏部条法総類』等の南宋時代の人事政策を記した史料の読解を進めることを主たる目的として設定していた。ところが新型コロナウイルス感染症の流行により、東京大学に研究者を招集することができなくなったことはもちろん、不慣れなテレワークやZoomを用いた講義のための準備作業などに追われ、十分な成果を挙げることがきわめて困難となった。8月以降はZoomを使った研究集会を二度開催することができたが、デジタル機器に対応できない研究者が参加不可能となるなど、問題点も多々見られた。 そうしたなかで、小林晃「南宋後期史彌遠専権内情及其〓変」『国際社会科学雑誌(中文版)』37-3、2020年が公開された。本稿は南宋後期に長期に渡って中央政権を壟断した史彌遠政権の変容過程を追ったものである。本研究では、南宋後期の臨時司令官職である制置使の幕僚が、中下級知識人の昇進のための重要な契機になった可能性を考慮するものであるが、その制置使が多く設置されるようになるのは、まさに上記の史彌遠政権時代であり、上記論文は制置使が多く設置された原因を考究し、その結果を中国の学界に問うものであり、本研究においても大きな意義のある成果といえる。 また上記以外に、小林は南宋時代の人事政策のあり方をその原初的な制度にまでさかのぼって理解するため、独自に『宋会要輯稿』掲載の記事の読解を試みた。1129年に南宋政権で行われた三省合一(中書省と門下省を合併して中書門下省とし、その長官に尚書省の長官をも兼任させる措置)直後の、中書門下省と尚書省の職務分担を問題化した難解な記事である。2021年1月と3月の九州石刻の会の席上で訳注を口頭で発表し、成果は未公表であるが、可能であれば今後世に問いたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究実績の項目で既述したように、本研究は東京大学に各地の研究者を招集し、特定の史料を各研究者の得意とする分野の知見を活かし、その総力を結集して読解を進めようとするものであった。ところが新型コロナウイルス感染症の流行はその推進にとってきわめて大きな障害となっている。現在のところ、2度の研究集会をZoom上で開催することができたものの、進捗状況は芳しくないといえる。 ただし出張を行うことはできなかったものの、その分の予算で『新出宋代墓志碑刻輯録(北宋巻)』文物出版社、2018年と『新出宋代墓志碑刻輯録(南宋巻)』文物出版社、2020年を購入することができた。本史料は従来未発表だった墓誌銘を多く収録しており、北宋から南宋にかけての中下級知識人層の昇進プロセスの実態をを知るうえで有力な手がかりを我々に示しうる史料であるものの、高額であるためか日本では所蔵している大学は未だ多くない。今後、本研究を進展させる上で重要な史料であり、進捗状況の一つとして付記しておきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、本研究を進展させるためには、研究集会を何としても開催する必要がある。ワクチンの接種がいつ終わるか、というきわめて外部的な要因に一部左右されざるを得ず、また参加できない研究者が出ざるを得ないものの、やはりZoomによる開催回数を増やすしか現状では方法は無いものと考えている。幸い、昨年度に比べて遠隔での講義や書類仕事に慣れてきたことにより、昨年度よりは研究会の開催を増やせる条件は整っているといえる。 またもともとの計画では中国での石刻史料の調査なども視野に入れていたが、それは本研究では断念せざるを得ないかも知れない。それよりも「現在までの進捗状況」で報告したように、『新出宋代墓志碑刻輯録』の北宋巻と南宋巻が出版されたため、採録された墓誌銘を精緻に読み込み、情報を整理することを優先することが本研究推進の近道になるものと現在では考えている。
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Causes of Carryover |
物品費については、研究集会を開催できなかったため、その成果を統合するためのパソコンなどを購入することはできなかったものの、研究集会を開催できなかった分の旅費をもって書籍購入の費用に充てた。物品費はほぼ予定通り使用したかのような見た目になっているが、実際には上記の理由で旅費を繰り入れて使用した額となっている。旅費・人権費・その他が0となっているのは、新型コロナウイルスの流行により、研究集会の開催や長期の出張、史料調査が不可能になったためである。
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Research Products
(2 results)