2021 Fiscal Year Research-status Report
前3千年紀シュメール・アッカド地方の政治と社会:出土史料の研究
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20K01006
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Research Institution | Kokushikan University |
Principal Investigator |
小口 和美 国士舘大学, 21世紀アジア学部, 教授 (90194521)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前川 和也 国士舘大学, 付置研究所, 研究員 (60027547)
森 若葉 同志社大学, 研究開発推進機構, 共同研究員 (80419457)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | シュメール / アッカド / ウム・アル・アカリブ / キシュ / 初期王朝期 / アッカド期 / ギッシャ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトは、南メソポタミア(バビロニア)の都市遺跡のうち、北(アッカド)に位置するキシュと南(シュメール)のギッシャ(ウム・アル・アカリブ遺跡)およびギッシャ周辺の発掘成果を再検討、比較することによって、紀元前3千年紀後半、南部バビロニアの都市化の地域差を求め、さらに、ウム・アル・アカリブ出土の楔形文字資料を手写することで、ウム・アル・アカリブがギッシャであったとする我々の見解を補強し、さらに粘土板文字記録システムがキシュを通じてシリア地域などに伝播したとする「北部伝統」、「キシュ文明」説の証明を行うものである。 現在粘土板を所有するイラク博物館の許可のもと、すべてのギッシャ出土粘土板文書を手写、分析して欧文にて公刊することを目的のひとつとしている。2021年度は研究協力者であるイラクのバビロン大学オライビ教授より送られてきた写真に基づき、前川および森が隔週、文書の手写および分析を進めた。手写によりあらたな述語、固有名詞の発見もあり、ギッシャが果たした役割についても分析を進めた。ウム・アル・アカリブ盗掘の結果出土した粘土板が、すでに欧米研究者によってさまざまな文献メディアによって公刊されている。我々はこれらの諸出版をすべて遺漏なく収集することにも力を注いだ。 発掘成果の再検討としては、小口により初期王朝期Ⅲ期から初期アッカド期にかけての土器編年の検討が着手された。当該時期の土器編年には不明点が多いが、南メソポタミアでの近年の発掘調査報告書の収集にも力を注ぎ、さらに、未発表のアッカド地域の土器の出版に向けて、再整理、検討を進めた。 一方、研究協力者であるオライビ教授の日本招聘は、COVID-19のため、再度延期せざるを得なかったため、オンラインやメールにより進捗状況、写真撮影などについての情報交換をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は楔形文字関連および考古学関連の文献収集を順調に進めたほか、研究協力者のオライビの協力の下、一定の写真資料を手に入れることができ、手写および検討を進めた。 手写および検討により、徐々に成果も見えてきている。既に、前川および森はギッシャの発掘において出土した粘土板のいくつかは、従来、知られていなかったジャンルに属することをつきとめている。また、あらたな述語、固有名詞の発見:解読、初期王朝期から初期アッカド期にかけてのギッシャが果たした役割などに関して、我々の文書解析は、重大な寄与をなすと考えられるまでに至っている。さらに歴史上有名なギッシャとラガシュの抗争に関しても欧米学会の主流見解とは異なる新設(例えば、ギッシャの支配者イルおよびギッシャキドゥが果たした役割)を用意しつつある。 ただ写真をとおしての粘土板読解は困難を伴うことも多く、すでに撮影ずみの粘土板についてもあらたな角度からの新写真が分析をさらに進展させることも予想されることから、2022年度以降、オライビ氏に新撮影の依頼をおこなうことをも計画している。 考古学関連資料の検討も、新たな南メソポタミアの調査報告書が徐々に刊行されており、アッカド地域との比較検討、整理が可能な状況になってきている。特に初期王朝Ⅲ期からアッカド期にかけての土器は見分けるのが困難であり、遺跡の時代設定が難しい現状にある。これらを再検討、再整理できる状況になったのは目覚ましい進展といえる。 概ね順調に研究は進んでいるとはいえ、オライビ教授の日本への招聘はCOVID-19の影響で、再度の延期とせざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に予定していたイラク、バビロン大学のオライビ教授の招聘が2021年度も実施できなかったため、2022年度に再度試みて、ウム・アル・アカリブの粘土板文字資料についての細部の検討をおこなうと同時に、考古遺物の比較研究も継続して実施予定である。 上述したように、オライビ教授に新写真を依頼することも考えている。新写真がもたらされることにより、新成果を得られる可能性があるからである。例えば、ウム・アル・アカリブ出土の楔形文字資料UA1442は神名・都市名を列挙した重要な「辞書テキスト」であり、既に我々はこの文書表面の記述がシュルパック出土のSF23などと同一であることをつきとめている。一方、SF23などとは異なり、UA1442には裏面部にさらに記述があると想定できる。もし裏面部の新撮影によってUA1442の全体像が明らかになれば、これは初期王朝期シュメールの「辞書テキスト」研究にとってのきわめて重要な新成果となる。ただ、残念ながら裏面部の破損はきわめて深刻であり、現在我々は、裏面部について1枚の写真を有しているにすぎず、新たな写真が望まれる。 もう1つの目的は、初期王朝期メソポタミアにおけるキシュの役割についての考究である。最近になって、初期王朝期Ⅰ、Ⅱ期においてキシュが果たした役割は、従来想定されているほど高評価すべきではない、また初期王朝Ⅲ期までキシュへのアッカド人混入はアブ・サラビクなどにくらべて高くない、などの新説も提出されている(e.g., Westenholz, SM50[2020])。ただ、我々は、キシュ、アブサラビク文書の分析を通じて、現在キシュの政治的、文化的役割は、次のアッカド初期までも視野において評価すべきとの見解に到達している。キシュ文書分析が次年度以降における課題である。
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Causes of Carryover |
イラク、バビロン大学所属、ハイダル・オライビ教授の招聘が、COVID-19の影響で、昨年同様延期せざるを得なかったため生じたものである。2022年度実施できれば招聘する予定である。
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Research Products
(10 results)