2020 Fiscal Year Research-status Report
近世東アジアの「征服王朝」にみえる都城空間変容の比較史的研究
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20K01012
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Research Institution | Nagano National College of Technology |
Principal Investigator |
久保田 和男 長野工業高等専門学校, 一般科, 教授 (60311023)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 徽宗 / 開封 / 元符皇后 / 向太后 / 清明上河図 / 千里江山図 / 瑞鶴図 / 彗星 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、画像資料に注目した研究をおこなった。北宋都城開封について描いたとされる絵画として張択端作『清明上河図』がある。この『清明上河図』の来歴については謎が多い。数年前の東京国立博物館展示公開に際して行われたシンポジウム報告が、『決定版『清明上河図』』として出版された。この報告集に掲載されて諸論文を検討することで、最新の美術史における研究動向を整理した。これによって、『清明上河図』が向太后の一族に下賜された可能性が高いことが分かった。宮廷絵画の下賜について他の例(『千里江山図』など)とも比較することによって、徽宗朝の画期をなす、政和3年という年代に注目して徽宗朝政治文化の転換のメカニズムを理解することを試みた。この結果、政和・宣和年間における都城改造の意義を、今後検討する基礎的な研究を行った。 本年はその他にも周辺諸学の成果を取り入れることを試みた。まず、1106年の彗星は歴史的な大彗星であることを天文学の研究を参照することで了解し論文に盛り込んだ。徽宗の対応は、宋代における彗星対応のなかでも特異なものであることをあきらかにし、徽宗時代の政治文化の特色として位置づけることを試みた。今後、彗星の出現の同時代人に与えた影響を歴史的に明らかにすることにも取り組みたい。世界中の人々が同じ彗星を見たわけであるが、それによる対応は異なる。これは比較文化史の一つのテーマとなろう。もう一つは、地球温暖化研究によって精密に分析されるようになった古気象学の成果である。徽宗時代1100年頃からユーラシア東部において、気温の寒冷化が顕著に見られるようになったことが、科学的に明らかとなった。本年は、2度にわたり古気象学の学会に出席し、歴史学への応用を考える構想を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度は、コロナ禍の中で校務において、オンライン授業など、未曾有の対応を迫られ、研究時間は圧縮された。また、研究計画では予定していた中国渡航による都城遺跡の見学もできなくなった。そのため、研究計画所期の目的を十分果たすことが十分にできなかった。一方で、オンラインによる学会への出席が可能になったため、学会の出席数では例年よりも多くなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、研究の量としては計画通りには行かなかったが、計画で想定していなかった、古気象学の成果を歴史研究に取り入れることに展望がみえてきた。(古気象学の学会がオンラインで開かれたことも幸いした。)あわせて、彗星の出現に対する、当該時代の人々の恐れや政治利用などの面で、新しい知見を斯界に提供する見込みがでてきた。次年度には、このような側面を研究計画に加えることを推進方策とする。特に、唐宋変革として提案されている理論にたいして、気候変動の要素を付け加えることはおおきな歴史学への貢献で有ると思われる。彗星の出現については、やはり唐宋の間で、対応に大きな違いがある。また、東アジアの諸地域、とくに日中の間にはその比較すべき論点があり、新たな知見として検討する価値が高い。思想史などの分野で見逃している論点が明らかになりつつある。
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Causes of Carryover |
緊急事態宣言が発令されたことなどもあり、国外、県外への出張を自粛したため。令和3年度の使用についても同様なことが考えられ、不透明な面が残る。なお令和2年度残額については、令和3年度の物品費(東アジア都城考古資料)の不足分に充てる計画である。
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[Book] 史料与場域2021
Author(s)
久保田和男(共著)
Total Pages
439
Publisher
上海人民出版社
ISBN
978-7-208-16830-5