2023 Fiscal Year Research-status Report
近世中国官僚制と科挙に関する公文書並びに文物の日欧伝播とその影響に関する研究
Project/Area Number |
20K01015
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大野 晃嗣 東北大学, 文学研究科, 教授 (50396412)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 明清中国 / 官僚制 / イサーク・ティチングの日記 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、公務でワルシャワ大学を訪問した際に、先方の日本学科のアグネシカ・コズィラ教授、イヴォナ・コルジンスカナブロツカ教授と面談を持ち、同大学が所蔵する近世中国王朝の漢籍および文物について、多数の助言を受けることができた。滞在期間が短かったために、具体的な調査を実施するには至らなかったが、次回の訪問に際して、同大学の中国学の教員との研究交流の橋渡しを快諾していただき、これによって、今後の中央ヨーロッパにおける中国近世王朝の文物調査についての可能性を広げる収穫を得た。 また、12月には那覇市歴史博物館において琉球王朝の文物を調査し、特に官服に見られる中国王朝の影響について調査、写真撮影を実施し、いくつかの新たな発見をすることができた。 更に、これまで同様、18世紀オランダ東インド会社の遣清使節の代表として、北京を訪問したことで知られるイサーク・ティチングの日記の翻訳と注釈についても作業を進め、西洋人から見た清朝の姿について研究を深めた。特に旅行経路上の地名の比定においては、同行者であったファン・ブラームとド・ギーニュの残した記録資料、及び現存する地方志との比較対象が有効であり、その作業から彼らが極めて正確に地名を記録しているだけでなく、特にド・ギーニュの記録は現存する県志に匹敵する詳細さを有していることも判明した。加えて、官僚とその組織、また習俗・文物に対する、使節一行の観察は実にきめ細やかで、来華する以前から、高い水準で近世中国王朝の情報を仕入れていたことが、これまで以上に詳しくわかるようになった。一方で、彼らが聞き取った地名の微妙な音の差異が何を意味するのか、新たな疑問も生じている。この成果については、「ティッチングの日記翻訳における二三の報告」と題して研究報告を行い、松方冬子(東京大学)、森田由紀、大東敬典(東京大学)をはじめとする諸先生から助言を仰ぐことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度から計画していたローマ・ラ・サピエンツァ大学での調査は、直前に家庭の事情から渡航がかなわなくなった。このこともあって、コロナで遅れていた計画の進捗を取り戻すには至っていない。また円安の影響もあって、ヨーロッパでの調査計画を複数用意することが困難となりつつあることも理由としてあげられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナによる遅れを完全に取り戻すのは難しく、また現在の円安の状況では長期間にわたる滞在調査も困難となりつつある。また、先にも述べたローマでの調査を行えなかったこともあり、計画を一年間延長し、残された時間内で最大限の成果をあげる努力をしたい。特に、1,ヴェネツィア・カフォスカリ大学に訪問し、先方の中国学の教員と研究協力をすること、2,経費の負担が小さい台湾、韓国などにおいて、明清公文書などの一次史料を調査すること、3,那覇市歴史博物館など、国内の所蔵機関での一次資料・文物の調査を行うこと、4,イサーク・ティチングの日記の翻訳と注釈を継続し、西洋人による中国像についての根拠について考察を深めること、などを確実に実行し、本申請内容を締めくくりたい。同時に、この申請内容の遂行によって、すでに新たな問題を見つけることもできたので、新年度に向けて科研費を申請し、本課題の研究を継続する予定である。
|
Causes of Carryover |
予定していたローマ・ラ・サピエンツァ大学での調査を行えなかったことが主たる要因である。そこで計画期間を一年間延長し、残された時間内において、先述したとおり、1,ヴェネツィア・カフォスカリ大学に訪問し、先方の中国学の教員と研究協力をすること、2,経費の負担が小さい台湾、韓国などにおいて、明清公文書などの一次史料を調査すること、3,那覇市歴史博物館など、国内の所蔵機関での一次資料・文物の調査を行うこと、4,イサーク・ティチングの日記の翻訳と注釈を継続し、西洋人による中国像についての根拠について考察を深めること、などを実行する。
|