2021 Fiscal Year Research-status Report
清代中期における銅銭の安定流通の崩壊過程―銭貴から銀貴への反転を読み解く―
Project/Area Number |
20K01016
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
上田 裕之 筑波大学, 人文社会系, 助教 (70581586)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 雲南銅 / 制銭 / 銅価 / 鋳息 / 政策史 / 档案 / 清代貨幣史 / 中国貨幣史 |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度に発表した論文「清代乾隆中葉の雲南省におけるベン銅体制の変質と銅価増額の財源問題」(『社会経済史学』86(4)、2021)の執筆過程において、乾隆31~45(1766~1780)年の雲南銅をめぐる混乱が極めて深刻であったことを見出した。しかし、当該事象については従来認知すらされておらず、基礎的な事実関係さえ復元されてこなかった。雲南銅の官への納入量が激減して雲南省が対応を迫られたことは上記論文について明らかにしたが、諸省への影響の広がりについては別途それを検証する必要がある。そこで本年度は、雲南省から雲南銅の供給を受けて制銭を鋳造していた江蘇・浙江・江西・湖北・広西・貴州・陝西・福建・広東の9省の動向について精査した。すなわち、乾隆31~55(1766~1790)年における前記9省の銅調達・制銭鋳造に関する多数の奏摺(省を統括する総督・巡撫が報告や政策立案のために皇帝に上奏した文書)を『宮中档朱批奏摺財政類』および『宮中档乾隆朝奏摺』から抽出し、『大清高宗純皇帝実録』『皇朝文献通考』『欽定大清会典事例』『欽定戸部鼓鋳則例』などの官撰書の記載と照合しながら、雲南銅の不足に際して諸省がどのような対応をとったのか、雲南銅の不足が解消された後にはどのような経過をたどったのか、同時期の銭価はどのように推移し諸省の政策をどう規定していたのか、諸省の政策から前稿で論じた雲南省の政策を捉え返すとどのような意義づけが可能になるか、といった問題を検討した。その結論は既に得られており、現在(2022年4月時点)、論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の研究計画調書において、「本研究では何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか」という項目を立てて「①清朝の雲南銅調達体制の不振」「②清朝の制銭鋳造の不振」「③私鋳銭流通と清朝の取り締まり」「④各種貨幣の流通状況および商品経済との関係」の4点を列挙した。昨年度発表した論文と現在執筆中の論文において①②に対応する成果を挙げることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画を変更する必要性は現時点で感じていない。引き続き『宮中档朱批奏摺財政類』『宮中档乾隆朝奏摺』を初めとする一次史料と『大清高宗純皇帝実録』『皇朝文献通考』『欽定大清会典事例』『欽定戸部鼓鋳則例』などの官撰書から関連する記載を徹底的に洗い出し、銅銭の安定流通が弛緩・瓦解していったプロセスの解明に取り組む。ただし、前年度に発表した論文と現在執筆中の論文は専ら政策過程を扱ったものであるのに対し、今後は民間の貨幣流通を正面から扱うことになるので、行政文書・官撰書に基づく史実の復元にはこれまで以上に困難がともなうと予想される。しかし、別の性格の史料が大量に見出されることはほとんど期待できないので、上記の手法を地道に継続していきたい。
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Research Products
(1 results)