2020 Fiscal Year Research-status Report
Impact of the Salafi Jihad Concept on Formation of a Modern Islamic State
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20K01022
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
中村 覚 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (60359867)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | サウディアラビア / 全方位均衡 / ジハード / 国家形成 / テロ / ロヒンギャ / サラフィー |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、「「サラフ主義ジハード」は「テロリズム」か―サウジアラビアのスンナ派的な中道派によるジハード及びタクフィールの解釈―」を著すことができた。これにより、第一次サウード朝、第二次サウード朝、サウディアラビアの建国期、サウディアラビア安定期(1932-2015) におけるジハード教義と国家形成(政府系)、サウディアラビア安定期(1932-2015) におけるジハード教義と国家形成(反政府系)に関して、(a)ジハード教義に関する研究と、(b)イスラーム国家(サウディアラビア)の国家形成に関する研究として、まとめることができた。これらの研究成果は、『中道派イスラーム事典』、ムハンマド・イブン・アブドゥルワッハーブ(MW)の著作全集等を検討した成果である。本研究成果は、サウディアラビアのジハード概念の変化と非政治的サラフ主義の台頭する過程を明らかにできた。 本研究の当初の仮説は、微修正の上、概ね支持される結果となった。つまり、サウディアラビアの(いわゆるワッハーブ主義的と言われてきた)ジハードの教義は,クルアーンを典拠としているために防衛ジハードであるが、第一次サウード朝では積極的な宣教により政治的摩擦を激化し、第二次サウード朝では防衛ジハードから逸脱して過激化していた。サウディアラビア王国以後、政府は、非政治的サラフ主義に転じている。 さらに初年度は、「サウディアラビアのロヒンギャ危機への対応複合的な地域研究法を統合する全方位均衡論の試み」日本国際政治学会部会1「IR理論に依拠した学際的地域研究」2020年 10月23日(金)13:00 -15:30、会場:オンライン(ZOOM Platform)にて、サウディアラビアを事例としながら、「全方位均衡論」の適用範囲を政権レベルから、社会レベル、グローバルレベルへと拡大する政治学的成果をあげることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目の予定としていた第一次サウード朝のみならず、2年目以降に予定していた第二次サウード朝から3年目に予定していたサウディアラビア安定期(1932-2015)におけるジハード教義と国家形成に関して、また、4年目に予定していた サウディアラビア安定期(1932-2015) におけるジハード教義と国家形成(政府系)と、5年目にサウディアラビア安定期(1932-2015) におけるジハード教義と国家形成(反政府系)として予定していた計画も進展させることができた。それらは、『中道派イスラーム事典』、MWの著作全集、年代記を主な資料として分析した。また、N. J. Delong-bas (2004) Wahhabi Islam: From Revival and Reform to Global Jihad. Oxford: Oxford University Pressや D. Commins (2006) The Wahhabi Mission and Saudi Arabia. London: I.B. Tauris. で問題提起された論争に対して、当研究の成果を提示することができた。 さらに、S. Davidによる1991年の全方位均衡論について、その有用性を提唱しつつ、改良することができた。中村覚監修・末近 浩太【編著】『シリア・レバノン・イラク・イラン』を出版する成果に恵まれたが、その中では、全方位均衡論の発展モデルに関する章のために研究支援することとなった。 ただし1年目の予定していた、サウディアラビアのキングサウード大学で、図書館等での資料収集と専門家との意見交換は、新型コロナウィルス感染拡大のため、適わなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の予定では、ウラマーのファトワー集や年代記を活用し、第二次サウード朝におけるジハードの教義と国家形成に関して分析するとしていたが、1年目においてすでに、第二次サウード朝におけるジハード教義の変化や、国内外の政治環境の変化に関する歴史研究を一定度、実施することができた。そこで2年目には、当初予定の研究をさらに深めつつ、全方位均衡論を活用した第二次サウード朝に関する研究を実施することとする。 1年目の予定では、サウディアラビアのキングサウード大学で、図書館等での資料収集と専門家との意見交換を実施する予定だったが、できなかったため、2年目に実施する機会を窺うこととする。また、2年目の予定では、エジプトで、古書店に行きジハードに関する研究書やサウディアラビアの政治史に関する希少本を収集し、カイロ大学の専門家と意見交換をすることとなっているが、新型コロナウィルス感染拡大の状況を見極めつつ、実施の機会を探ることとする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大のため、国外出張を実施できず、また、国外での資料購入も実施できなかった。本年度もまた、新型コロナウィルス感染拡大のため、国外出張の見通しがはっきりしない状況である。新型コロナウィルス感染拡大の防止への協力が最優先課題となるため、その推移を見極めて海外出張の実施の機会を窺うこととしたい。予定の変更を織り込みながら、当初予定の2年目以降に予定していた研究計画の中で可能なものを進捗させる。
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