2023 Fiscal Year Research-status Report
中国古代官制秩序の形成-前漢劉邦集団の構造との関連から-
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20K01024
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
福永 善隆 鹿児島大学, 法文教育学域法文学系, 准教授 (00581539)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 官僚機構 / 側近官 / 武帝 / 監察 / 劉邦集団 / 内朝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は汲古書院から『前漢官僚機構の構造と展開』と題する単著を刊行した。本書は、十章で構成され、皇帝の側近官の展開を中心として、前漢後半期における官僚機構の展開と構造を論じた。その結果、1)皇帝の側近官には、律令だけでは判断できない事案の処理や高官の人事等、本来皇帝だけが行使される大権が委ねられていることから、彼らが理念上「皇帝と一体化した存在」として位置づけることができること、2)郡国制から実質的郡県制への転換に基づき、1)の側近官によって構成される皇帝官房が組織化され、強化されたこと、3)他方、既存の官僚機構も、上の国制の転換により全国を一元的に統治するために、人事考課の充実・強化により、効率的な運用が求められるようになったこと、4)1・2は並行して進められ、その結果、皇帝官房たる尚書と官僚機構のトップたる三公が協同して運用される統治機構が、前漢末に確立したことが明らかとなった。この成果により、前漢武帝期以降、後半期における官僚機構の展開に関して、本研究課題における所期の課題はほぼ達成された。 また、前漢前半期については、 邉見統著『前漢時代における高祖系列侯』と題する書評を『史潮』新93号にて上梓し、劉邦集団研究の現状や今後の課題についての自身の考えを提示した。特に、これまで前漢前半期だけを考察対象としていた劉邦集団の影響について、後半期まで視野に入れて、その官僚構造に与えた影響を考えるべきとして、本課題の根本にある問題意識を提示した。その際、彼らの結節点である劉邦が生身の存在から、理念化された存在へと変質していく過程について追究すべきとの論点を提示した。この点は、本研究課題の今後の見通しとも関わる論点である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2024年3月に、本課題の成果を含めて、汲古書院から『前漢官僚機構の構造と展開』と題する単著を出版し、その前に挙げていた成果と結びつけて、体系化することができた。よって、当初の計画以上に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
文帝期の察挙と劉邦集団の構造との関連について、論文化を目指す。近年公刊された『張家山漢墓竹簡〔三三六号墓)』功令は、本研究課題の対象とする文帝期の人事の実態を捉える上で重要な史料である。そこに含まれる人事規定にも目配りをしながら、研究を進める。その際、今年度公刊した『前漢官僚機構の構造と展開』に寄せられる反応も踏まえて研究を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
本研究課題がスタートした2020年度から2021年度まで、コロナウィルスの感染拡大により、出張が制限されていたため、旅費としての使用ができず、また物品費で消化するのにも限界があったため、繰り越していたが、2022年度以降、出張が可能となったことにより、徐々に繰越分は解消されている。来年度は、本研究課題をさらに精緻化するために、国内で行われる学会・研究会に可能な限り参加し、情報交換を行いたい。また、簡牘資料に関する書籍も陸続と公刊されているため、それらの購入費用に当てたい。
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