2021 Fiscal Year Research-status Report
The Newspapers of Sufi Tariqa and Their Political and Cultural Influences on the Nationalist Movement of Algeria
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20K01027
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
私市 正年 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (80177807)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | スーフィー教団 / イスラーム / 道徳、倫理 / ナショナリズム / 植民地主義 / アルジェリア |
Outline of Annual Research Achievements |
コロナ感染の拡大のため海外調査ができなかったので、研究計画に沿って現在入手済みの史料を用いて以下のような研究と調査を実施した。 al-Balagh紙を中心に植民地期に進行していたイスラーム・モラルに反する現象に関する記事を探し、その読解と分析を行った。その中で極めて重要な内容を含む記事が、No.58(1928年12月28日刊行)であった。そこには、「売春と様々な恥辱の行為の蔓延」というタイトルの記事があり、その内容は植民地支配下でアルジェリア社会に広がる売春や反イスラーム的な非道徳な振る舞いの広がり、そしてそれを見て見ぬふりをしている役人たちの姿勢を非難する記事になっている。 もう一つ注目すべき記事は、No.190(1930年11月28日刊行)に掲載された「女性の教育とヴェールを被らないこと(の危険性)」という記事である。そこでは、「女性が読み書きを学ぶことや、宗教の諸問題の知識、料理や裁縫の知識を身に着けることは大切であるが、それ以上はまったく必要がない。(問題は)西洋の影響を受けて、ヴェールを被らないことや、男女平等を主張するという間違った考えがはびこっていることである。ヴェールを被らないことは、非道徳であり、このままでは女性は遊びや娯楽に興じ、子どもの世話をほったらかしにすることになる。」と論じられている。本研究の課題に即すならば、こうした記事は、保守的な問題として片付けるよりも、フランス植民地支配下で進行する外来文化に対する危機感と反発として読むことができる。こうした危機感や反発は、政治運動と結合する形で、アルジェリア人民衆のナショナリズム運動を支える倫理、道徳感となっていったと考えられる。その点において農村民衆が、ザーウィヤやスーフィー教団という、保守的とみられる施設での教育を介してナショナリズム思想を形成していったことがうかがい知れる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はスーフィー教団の新聞を資料として用い、その政治文化的影響を分析することであるが、2021年度には以下のような研究を行なった。Lisan al-Din, al-Balagh, al-Rashad, al-Murshidなど主要な新聞資料を入手し、その読解と分析作業を行なった。なかでも、Lisan al-Din紙とal-Balagh紙の記事からは、スーフィー教団が売春や、バー、賭博場開設など反イスラーム的で非道徳な振る舞いの広がりを非難し、警告する姿勢がみられることを確認した。他方で、アルジェリアの国内に関する政治問題には触れず、イタリアのリビア侵攻、パレスティナ問題などには積極的に発言するというダブルスタンダードの姿勢からは、スーフィー教団が政治にも強い関心を抱いていたことがわかった。このように、道徳や倫理にかかわる問題を、(国外の)政治問題とリンクさせるという手法は、FLNやアルジェリア・ウラマー協会と言った都市的知識人の回路を介した政治文化形成とは異なる、農村的回路を介したナショナリズム形成であったのではないかと、との見通しを得ることができた。ただし、現地での調査と史料分析ができなかったことは、当初予定していた研究段階にまで届かなかったと言える。しかし、研究成果の一部を、論文Anticolonialsme et tendance politique des tariqas soufies et des zawiyas en Algerie(AJAMES,37-2, 2021)として発表できたことは、研究が確実に実を結びつつあることことだと確信している。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、第1に、スーフィー教団資料の読解と分析を進めること、第2にこれまでの成果の見直しを行うため研究者との意見交換、あるいは学会報告を考えている。第1の作業は、史料に出てくる地名や人物等の比定のため現地調査を行う。とくに、スーフィー教団の史料に詳しい、Foued al-Kasimi氏から史料読解作業の援助を得、史料分析の作業をスピードアップする。アルジェリアでの調査では、アルジェ大学のArous Zoubir氏と植民地期のイスラーム教育について意見交換を行う予定である。また、アルジェ、モスタガネム、オランなどのモスクやザーウィヤを訪れ、史料に出てくる地名の確認作業を行う。第2は、アルジェリアの植民地史研究をしている、渡邊祥子氏(東京大学)や小山田紀子氏(新潟国際情報大学)を交えて、論文(Anticolonialsme et tendance politique des tariqas soufies et des zawiyas en Algerie(AJAMES,37-2, 2021)で論じた、イスラームの道徳や倫理に関わる新聞記事が政治文化としてどのように結実したのか、という理解と認識を深めたい。なお、比較の視点からこの問題を検討するために、モロッコのAllal al-FasiやMuhammad Daoudの著作、チュニジアにおけるザイトゥーナのウラマーたちの著作をも読み、植民地支配下における反イスラーム的振る舞いや行動と、それに対する反発や非難の叙述がいかなる政治文化的影響を与えたかについても考察をする。必用に応じて、そのためモロッコ、あるいはチュニジアに出張する。
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Causes of Carryover |
本研究は、アルジェリアに出張し、現地で史料分析を行うこと、および現地での史資料の蒐集を予定していたが、コロナ感染症の蔓延のため出張ができず、研究活動は、現在、入手している史料を読解、分析することを中心に実施した。そのため、予算を使用する必要が生じなかった。2022年度については、コロナの感染はやや鎮静化傾向にあり、現地調査はできる見込みなので、本予算をそのために使用する予定である。5月下旬にチュニジア、9月にアルジェリア、1月から2月にアルジェリアとモロッコに出張し、現地調査を実施する予定である。
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Research Products
(3 results)