2023 Fiscal Year Research-status Report
The Newspapers of Sufi Tariqa and Their Political and Cultural Influences on the Nationalist Movement of Algeria
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20K01027
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
私市 正年 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (80177807)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アルジェリア / ザーウィヤ / スーフィー教団 / 民族運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来の研究ではアルジェリアにおける民族運動に農村大衆が大量に動員された事実が説明できない、との問題提起をした上で、農村に拠点を置いたスーフィー教団・ザーウィヤが民族運動に果たした役割を、思想的視点から再検討を試みることを目的とした研究である。方法論としては、スーフィー教団が発行していた新聞6紙を資料として分析する手法を用いた。その目的と手法に沿い実施した研究からは、スーフィー教団・ザーウィヤがとった、国内政治には沈黙するが、国外問題には積極的に発言するという姿勢はダブル・スタンダードであり、そこにはスーフィー教団・ザーウィヤの隠れた政治的意思が明確に読み取れるという新しい見解を導き出した。この研究成果は『日本中東学会年報(AJAMES)』に論文"Anticolonialisme et tendance politique des tariqas soufies et des zawiyas en Algerie :Reconsideration du role nationaliste des tariqas a travers l’analyse des journaux de tariqa et du journal al-Ruh"(AJAMES,37-2, 2022, pp.189-226)として発表をした。さらに、2023年5月15日にアルジェ大学、およびアルジェリア外務省において同様の趣旨の講演を行った。同時期に、アルジェリアのZawiya al-Hamilを訪れ、Foued Kacimi氏の協力を得て、al-Ruh紙の再読と、Zawiyaが所有していたHabous(Waqf)文書の読解を行った。 また比較研究の視点から、チュニジアの1861年憲法の翻訳と分析作業を行い、植民地期チュニジアにおけるナショナリズム運動について研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、従来の研究ではアルジェリアにおける民族運動に農村大衆が大量に動員された事実が説明できない、との問題提起をした上で、農村に拠点を置いたスーフィー教団・ザーウィヤが民族運動に果たした役割を、思想的視点から再検討を試みる研究である。すでに、この研究の主要な論点は『日本中東学会年報(AJAMES)』に論文"Anticolonialisme et tendance politique des tariqas soufies et des zawiyas en Algerie :Reconsideration du role nationaliste des tariqas a travers l’analyse des journaux de tariqa et du journal al-Ruh"として発表を行った。 また、スーフィー教団の新聞の分析によって得られた結論をもとに、2023年5月15日にアルジェ大学、およびアルジェリア外務省において、スーフィー教団・ザーウィヤは、国内政治には沈黙するが、国外政治には積極的に発言する、というダブル・スタンダードの政治姿勢をとっていたことを指摘し、スーフィー教団・ザーウィヤの政治志向性は明確である、という趣旨の講演(どちらも招待講演)を行った。しかし、国外政治に対する事例が少ないことは論証として不十分であり、さらなる研究と調査が必要である。以上のことから、おおむね順調に進展していると判断をした。
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Strategy for Future Research Activity |
第一にスーフィー教団とザーウィヤの新聞資料の分析をさらに進め、スーフィー教団とザーウィヤのダブル・スタンダード的政治志向をより精緻に分析する。とくにスーフィー教団とザーウィヤが、パレスティナ問題に対しては、反英、反イスラエルと親パレスティナの姿勢をとり、イタリアのリビア植民地化に対しては、イタリア植民地支配に抵抗するリビア人への支持と称賛の姿勢を示したことについて、事例をふやして論証を深める。第二に、第一の研究成果に関連させる形で、ザーウィヤのアラビア語教育と宗教教育を支えた経済的基盤としての家族Habous(Waqf:寄進財産)の重要性に注目し、この分析を行う。モスクが所有した慈善Habous(Waqf)は植民地政府により没収されたのに対し、ザーウィヤの家族Habous(Waqf)は保持が認められた。先ず①al-Hamil、Mostaganem、およびチュニジア南部のザーウィヤが所有していた家族Habous文書を分析することによって、ザーウィヤの経済状況を明らかにし、次に②Habous財がザーウィヤの宗教と教育活動、生徒や教団員たちの生活を支える財源になっていた実態を明らかにする。その上で③生徒や教団員たちが残した新聞の記事や私的メモ類、ムジャーヒディーン文書館資料の分析によって民族主義的、反植民地的志向、民族運動への動員の実態を確認する。このような作業を通じて④ザーウィヤは家族Habous財という経済的基盤によって活発なアラブ・イスラーム教育活動を行うことができ、その活動が農村の大衆を民族運動へと動員するイデオロギーを生み出したこと、を検討する。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症の広がりのため、当初予定していたアルジェリアとモロッコへの海外調査が部分的にしかできず、その分の使用予算に余剰が生じた。とくに新聞資料の分析は現地研究者(Foued Kacimi氏)の協力を得て行う予定であったので資料講読の補助費が残った。また、そのために研究と調査の作業は翌年度の課題としてもちこされた。海外調査と資料講読が予定通りにできなかったため研究成果も不十分であった。 さらに、この調査で得られた研究成果をもとにセミナーを開催する予定であったが、それができず、その分の予算にも余剰が生じた。余剰予算は、翌年度、アルジェリアとモロッコへの海外調査の費用と現地での新聞資料の講読の諸費用(資料講読の補助費を含む)、および本研究の成果のまとめをかねたセミナーの開催費用として使う予定である。
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