2020 Fiscal Year Research-status Report
ベトナム刊行仏典よりみる近世近代東アジア仏教典籍刊行史の研究
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20K01029
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
宮嶋 純子 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (80612621)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 東アジア仏教史 / ベトナム仏教史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は、20世紀以前にベトナムで刊行された漢文仏教典籍を手がかりとして、近世・近代東アジア地域における仏典刊行史及び仏教文化交流史の実態を解明することを目的とする。 初年度は、現存するベトナム刊行仏典について、主として序跋・刊記に記載の情報に基づき、典籍個々の刊行史の整理作業を行った。後述の通り予定していた現地調査が実施できなかったため、整理作業に用いたのは、代表者がこれまでの調査で得たベトナム北部・バクザン省ボーダー(補陀)寺所蔵典籍に関する写真資料と、インターネット上で一部公開・利用が可能な、ベトナム漢喃研究院・フランス極東学院所蔵等のベトナム刊行仏典である。 ベトナム刊行仏典と、東アジア他地域における同種の仏典の刊行状況との比較研究の対象として、まず具体的に注目したのは、特に禅宗で尊重された『仏祖三経』である。『仏祖三経』は東アジア全域で広く読まれた基礎的な仏教典籍で、特に中国・宋の禅学僧守遂の註解本『仏祖三経註』(12世紀)が流行した。従来この『仏祖三経註』については、朝鮮半島及び日本で刊行された版本のみが研究対象となっていた。しかしベトナムにおいても17世紀には『三経日誦』の書名で同書が刊行されており、19-20世紀の重刊本が現存している。朝鮮・日本刊行の『仏祖三経註』とベトナム刊行の『三経日誦』は、序文等の構成が全く異なることから、それぞれ別系統の底本が中国から伝来したと考えられる。 上記については既に「近世ベトナム北部地域における仏典刊行事業」(『東西学術研究所紀要』53)で概要を報告したが、今後、各版本における『仏祖三経』の本文テキスト・註釈の内容比較などより詳細な検討を進め、東アジア地域における同書の流通と受容の歴史を正確に理解する上で、ベトナム刊行仏典が重要な鍵となることを明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ベトナムで刊行された仏典のうち現存するものは、主としてベトナムの研究機関、在ハノイの漢喃研究院や国家図書館等に所蔵されている。これらの典籍資料については目録が公刊されているものの、テキストの本文については、極一部が公刊されているのみであり、基本的には現地でのみ閲覧が可能である。また、ベトナム各地の諸寺院が独自に所蔵する典籍資料や、木版版木も多く存在している。 当初の研究計画では、特に初年度はこれらの資料の総合的な把握のため、ベトナムにおける実地調査を主たる活動として位置付けていたが、新型コロナの世界的流行に伴いベトナム渡航が不可能であったため実施できていない。そのため本研究課題の進捗は「遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに行ったベトナムにおける資料収集の結果に基づき、各典籍に付された序文・跋文・刊記・芳名録類の詳細な分析を通じて、ベトナムにおける仏典刊行史の解明をさらに進める。同時に、既に取り上げた『仏祖三経』以外の典籍についても、中国・朝鮮・日本で刊行された版本との比較研究を行うことで、従来の中・朝・日の仏教典籍のみを用いた研究では得られなかった、新たな知見がもたらされることが期待される。 海外渡航が可能となれば、ベトナムの他、東アジア各国の諸機関・寺院に所蔵される典籍資料について現地調査を実施する。現時点ではその主要な調査地として、ベトナム及び韓国を想定している。
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Causes of Carryover |
初年度について、ベトナムを対象とする現地調査を中心に使用計画を立てていたが、新型コロナウイルスの流行により海外渡航が不可能となり、主に旅費及び書籍購入費・資料複写費用として計上していた金額についてほとんど執行することができなかった。 研究課題の性質上、現地調査による典籍資料の実見が不可欠であるため、次年度使用額については再び旅費及び書籍購入費として計上し、可能になり次第、ベトナムを中心とする現地調査の実施と資料の収集に当たりたい。
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Remarks |
(論文)宮嶋純子「北周末より唐代初期における洛陽仏教の動向」、氣賀澤保規編『隋唐洛陽と東アジア』、法蔵館、2020年、241~259頁
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